オンボーディング Onboarding 「新卒社員」や「中途社員」が辞めない仕組みづくり
『オンボーディング』とは、新入社員をスムーズに社内に溶け込ませ、パフォーマンスを上げさせるための一連の仕組みづくりを言います。この冊子ではHR先進国であるアメリカ企業の事例も踏まえ、人材育成のための最新のメソッドを解説。
オンボーディングの具体的な取り組み方をご紹介しています。
HR駆け込み寺
公開日:2020.4.23
目次
「やりがい搾取」という言葉をご存知ですか?その業界、職種で働きたいという意欲を持つ従業員に対し、経営者が「やりがい」をたてにして不当に安い賃金や劣悪な労働環境下で働かせることを指します。労働人口の低下による人材不足から採用がうまく行かず、「やりがい」を理由に在籍している社員に負荷をかけてしまっているケースも少なくからずあると思います。会社に対するエンゲージメントが高い社員ほど、真面目で責任感が強いため、「やりがい搾取」に陥りやすい傾向にあります。「社員が何も言わないから」と放置していたら、後で取り返しのつかない事態になりかねません。そのような不測の事態を防ぐために、経営者、管理職、人事担当者はどのようなことに気を付ければよいのでしょうか。人事・労務トラブル解決のプロフェッショナルである社会保険労務士の五味田匡功(ごみたまさよし)先生にアドバイスしていただきます。
私は中堅規模の広告代理店の人事担当役員です。ある若手リーダーから所属部門の担当役員との関係で相談を受けています。
若手リーダーは中堅規模の総合商社に新卒で入社して、同世代の中では恵まれた仕事環境、給与で働いてきたそうです。ただ、どうしてもデザイナーになる夢を諦めきれず、専門学校に通ってスキルを身につけ、弊社にデザイナーとして転職してきました。
「念願のやりたかった仕事なのでやっていて楽しいし、同僚、クライアントも素晴らしい人たちで満足しています。」と語る彼は、その成果が認められリーダーに抜擢されました。
ただ、彼の上司である担当役員と仕事に対する考え方が合わずに困っているとのことです。
役員は昔ながらの体育会系で、「がんばった人」=「勤務時間の多さ」と考えていて、有給休暇の取得を認めないタイプの人です。他の社員からも同様の相談、報告があり、先日もある社員が有給休暇の取得を申請したら、「お前が休んだら他のメンバーに迷惑がかかる」と言って認めなかったとのこと。チームメンバー全員に対しても同様に、予定があって定時で上がろうとする社員には「お前の代わりはいくらでもいる」と、低評価を示唆するような言い方をしているそうです。この数年ですでに10名近い社員が退職しており、なかにはうつ病で出社できなくなって辞めてしまった人もいました。
このような担当役員ですが、クライアントから大きな案件を取ってこられるため、社長は高く評価しており、社内では絶対的な存在です。社長も「辞めたい者は勝手に辞めればいい」という考え方で、社内の離職率などほとんど気にかけていません。
相談した若手リーダーをはじめ、このままでは将来有望な若手がどんどん離職してしまいます。どのように対策していけばよいでしょうか。
情報が行き渡っている今の世の中、本当にいい会社だけが生き残っていくようになります。しかるべき真っ当な理由で会社に改善を求めても受け入れられないようであれば、優秀な社員ほど「あえてそのような会社に留まらなくてもよいのでは…」と考え離職していくと思います。
とはいえ、今回ご相談いただいたケースのように、成果が求められ、時間よりも裁量で働くことができるデザイン系の会社は少ないので、たとえ社員が不満を抱いていたとしても、すぐに他のデザイン系の会社を見つける、ということは難しいでしょう。そのような場合、退職予備軍の社員は今の会社に所属しながら、もっと条件のいい会社を探す可能性が考えられます。
今回のケースではすでに退職者が多数出ており、それを担当役員、社長があまり気に留めていない、ということですが、労働人口が減少しており人材の確保がますます難しくなっている今の世の中では、もはや「辞めたい者は勝手に辞めればいい」という考えは通用しないでしょう。ましてや今は情報が透明化している時代、円満退社に至らなかった元社員は、インターネット上の採用口コミサイトなどに自身の経験談を書き込み、よくない評判を見た転職希望者はそのような会社にあえて入社したいとは思わないでしょう。
このような負のスパイラルから、社員はどんどん辞めていき、新入社員はなかなか入って来ない状況が続き、働く社員がいなくなっていけば、遅かれ早かれ事業は立ちいかなくなっていきます。会社の経営戦略を人事の観点から担う人事担当役員としては、社長、役員など経営者層に、社員が離職してしまうリスクを説き、今いる社員を定着させるためのオンボーディング施策を推進していくとよいでしょう。
そして有給休暇についてですが、会社は明確な理由がないにも関わらず、有給休暇を取りたいという申し出に対して「No」とは言えないことになっています。原則として法律に従い有給休暇は与えるべきですが、法律の話とは別に成果や仲間との調和の観点から見てどうか、という問題もあります。たとえば、この若手リーダーが休んだことによって周りに迷惑がかからないか、どうか…。
納期が目の前に迫っていて他の社員が休日返上で残業して取り組んでいるなか、この若手リーダーだけが一人権利を主張して休む、と言っている状態だとしたら、所属部門の担当役員が有給休暇の取得を認めなかった背景もわからないでもありません。たとえ法律的に正しかったとしても、その若手リーダーは一緒に働いている仲間のことを考えられず、自分のことばかり考えるような方ということです。
もちろん人が会社を選ぶのと同じように「会社も人を選んでいる」、ということです。この相談内容だけでは、すべて判別しきれませんが、この若手リーダーが、会社だけが全部悪くて自分はまったく悪くない、という考え方だとしたら、今後どこの会社に行ったとしても、うまくいかない可能性があります。
私の個人的な考えですが、何か問題が起きた場合、会社側にも課題があるが、自分にも課題がある、と半々で考えられる人はいい人材だと思います。自分自身が成長しなければ、環境も変えられません。若手リーダー自身が、どこの会社に行っても必要とされるようなスキルを身に着け、自己研鑽する努力も必要だと思います。若手リーダーにはそのようなアドバイスをしてあげるとよいでしょう。
以前の記事でもご紹介したように、法律を守らない前提で成り立っているビジネスはいずれ破綻します。健全な運営をしていく会社だけが行き残っていくようになるので、そのような会社で社員が安心して働けるよう改善に取り組んでいただければと思います。
ソビア社会保険労務士事務所 所長 社会保険労務士/中小企業診断士
一般財団法人日本次世代企業普及機構(通称:ホワイト財団)代表理事
次世代に残すべき素晴らしい企業を発掘し、「ホワイト企業」として認定します。
ホワイト財団は、“次世代に残すべき素晴らしい企業”を発見し、ホワイト企業認定によって取り組みを評価・表彰する組織です。
私たちが考える「ホワイト企業」とは、いわゆる世間で言われている「ブラック企業ではない企業」ではなく、労働法遵守は大前提とした下記のような企業が、ホワイト企業と呼ぶにふさわしいと考えています。
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