働き方改革が叫ばれる昨今、さまざまな業界で労働環境が激変しています。これは、会社に対する忠誠心や帰属意識を強く持つ従業員が減ってしまいかねない環境とも言えるでしょう。従業員の帰属意識が低下してしまう原因を探り、今企業が取るべき対策を探ってみます。
従業員の帰属意識が低いと会社はどうなる?
帰属意識とは、自分が組織の一員であるという自覚や、所属する組織が自分の居場所と感じられる状態のことです。企業への帰属意識が生まれると「この会社に貢献したい」という気持ちが芽生えます。そして、企業そのものだけでなく、提供するサービスや商品、自分が所属する部署への愛着も高まります。
従業員の帰属意識が向上すると、「モチベーションがアップして生産性が高まる」「チームワークが生まれ一体感がアップする」「離職率が低下する」といったメリットが生じます。働き手が減少している現代は人材の獲得競争が激化しているため、採用した人材の流出を防止する対策として、従業員の帰属意識を高める取り組みに励む企業が増えています。
従業員の帰属意識が低下してしまうと「この会社で働き続けたい」という気持ちが薄まり、簡単なきっかけで離職を考え始めるようになります。そうした突然の退職が増えると、採用担当者は急な人員補充に追われることになるでしょう。さらに、採用や教育にかかるコストもかさむため、企業経営を圧迫する要因になってしまいます。
個人の「会社のためにがんばろう」「仲間のためにがんばろう」という意識がなくなると、組織としての一体感もどんどん薄れてしまいます。力を合わせれば早く進むような仕事が停滞するようになり、生産性の向上が見込めなくなるでしょう。
経営者として、このような事態は避けなければなりません。では、なぜ従業員の帰属意識は低下してしまうのでしょうか?
従業員の帰属意識が希薄に。その原因を探る
帰属意識が低下する理由としては、以下のようなものがあります。
(理由1)コミュニケーション不足
経営陣と現場、上司と部下、部門間やグループ内などでコミュニケーションが不足すると、自分が属する部署や企業への愛着が持てなくなって帰属意識は低下します。テレワークの急増により、従来どおりの社内コミュニケーションができなくなったことも影響しているでしょう。
(理由2)終身雇用制度と年功序列の崩壊
長く働けば給料が上がり、ある程度自動的に昇格が約束されていた時代は、企業に貢献することで人生が豊かになっていきました。しかし今は、同じ会社に長く勤めようという意義が薄まり、転職が当たり前になっているため、帰属意識が高まりにくい状態にあります。
(理由3)成果主義の台頭
頑張っても思うような成果を出せない従業員は、努力が成果に結びつかないため、昇給や昇格に希望が持てません。結果的に、帰属意識が低下してしまう可能性があります。
(理由4)企業のビジョンや従業員の役割が曖昧
企業が掲げるビジョンがはっきりしないと、従業員の信頼を得られません。同時に、従業員の役割が曖昧な企業では、やりがいや責任感が薄れていきます。そういった状況では帰属意識を高めるのは難しいでしょう。
帰属意識が低下している理由を探るには、従業員満足度調査、エンゲージメントサーベイなどで、現状を知ることが有効です。こうしたリサーチの結果で社内のどこに問題があるのかを探り、帰属意識を高めるための施策を検討・実施してみてください。
「帰属意識」を高めるために企業側は何ができる?
リサーチ結果を元に社内のどこに問題があるかを洗い出したら、必要な施策を講じて帰属意識を高めていきましょう。考えられる方法として次のようなものがあります。
(1)企業理念を浸透させる
経営陣が企業理念を従業員に積極的に伝え「インナーブランディング」を行っていきます。社内報、社内SNS、動画などを通じて自社のストーリーを伝え、ワークショップなどを活用して、ミッションやバリューを浸透させていくといいでしょう。企業が求める行動指針を明示したカードなどを作成し、いつでも携帯して確認できるようにしているという例もあります。
(2)業務のフィードバックや目標設定を行う
「この会社なら成長できる」「この会社が自分の居場所」という感覚も帰属意識に結び付きます。適切な目標設定やフィードバックなどを通じて、成長を実感できる機会を設けていきましょう。定期的な1on1ミーティング、OKR、メンター制度などを活用して、企業側が期待する役割を伝えていくのも有効です。
(3)社内コミュニケーションを活性化する
従業員同士のコミュニケーションが活発になれば、自然と仲間意識が芽生え、帰属意識も高まります。コーヒーブレイク、シャッフルランチ、部活動の支援やイベント、レクリエーションの企画なども効果的です。またテレワークによるコミュニケーション低下が懸念される企業では、ツールの活用に力を入れる必要があるでしょう。
他に、ブラザー・シスター制度をはじめとする相談しやすい雰囲気づくりや、決起集会やキックオフイベント、上司が部下に感謝を伝えるサンクスデーのような企画も、従業員の帰属意識を高めてくれます。
(4)ワークライフバランスを整える
仕事と私生活が調和することも重要。ワークライフバランスが整うと、働きやすさを実感できるようになり、自社で働ける満足感が帰属意識につながっていきます。時短勤務制度、フレックスタイム制度、テレワークなどを導入することで、ストレスの軽減や仕事とプライベートの両立を図ってもらえるでしょう。福利厚生面の拡充も「この会社で働き続けたい」と思う大きな理由となり、帰属意識に好影響を生むでしょう。
(5)自分の能力や得意分野を活かせる環境を用意する
適材適所の配属や、ジョブローテーションによって、従業員自身の能力を最大限に生かす工夫を企業側が積極的に行うと効果的です。従業員は「自分を生かしてくれる会社」と実感し、帰属意識も高まります。
(6)学びの場を充実させる
社内研修、ワークショップ、OJTなどが充実していると、従業員は「自社が自分を成長させてくれる」と考えるようになり「この会社で成果を出そう」という発想につながります。その結果、帰属意識が高まることになるでしょう。
なお、帰属意識を高めるには、入社直後の期間が重要。早い段階で上司と部下が交流を深め、信頼関係を築くことで、帰属意識が高まります。企業側と従業員による、エンゲージメントを意識した関係づくりも有効です。また、採用段階で、企業風土、企業文化とのマッチングを意識しておくことも、帰属意識を高めるには重要でしょう。
まとめ
今回紹介した施策を実行した後は、しっかりと効果測定を行い、次の施策に反映させていきましょう。また、測定結果を社内に開示することで、従業員は「自分たちの声がきちんと経営に伝わっている」と感じることができ、さらに帰属意識の向上につながります。
現時点の問題点をリサーチで洗い出し、自社にあったやり方で、帰属意識を高めていってください。