企業にとって最も重要な要素といえる人材。近年では労働者人口の減少や人手不足から、多くの企業が採用や定着の方法を模索しています。特に、転職や副業が一般的となり、優れた人材を確保していくことは企業にとっての大命題となっているのです。単に待遇がいいというだけでは、人を定着させることが難しい時代になってきました。
そういった、「人」や「やりがいのある働き方」にいち早く注目し、創業時から取り組んできた会社があります。訪問介護や施設介護、福祉用具のレンタルサービスなどを全国的に展開しているセントケア・グループ(以下、セントケア)です。親会社であるセントケア・ホールディング株式会社を中心に全国に各地域事業会社があり、営業所は558カ所(2021年9月現在)。トータルな介護サービスを提供するセントケア・グループとして躍進しています。介護に加え、介護ロボットの企画・販売や障害を持つ方々の就労支援などを行うなど、福祉全般に取り組んでいる企業です。
元々は土木設計の会社を経営していた現会長・村上美晴(むらかみ よしはる)氏が、38年前に設立したのが始まりという同社。当時、下請け会社として受けた仕事を淡々とこなすだけの働き方に疑問を感じていた村上会長は、「自信と誇りを持ち、やりがいを感じられる会社をつくりたい」と考えました。当時はまだ高齢化率は低く、高齢化社会や介護問題が注目される前。民間企業で介護に取り組もうという会社が少なかったなかで、先を見越して前身となる会社、日本福祉サービス株式会社を創業したのです。まったくの異業種への挑戦でもありました。
今回は、いち早く働き方に注目してきた同社が、HRシステムの導入を検討した経緯や実際の効果などについて、人事部人材開発課の吉田 祐菜(よしだ ゆうな)さんに、お話しいただきました。
目次
物理的な距離が壁となり、難しかった新卒社員の現状把握。内定者との相互コミュニケーションも課題だった
弊社には経営方針書というものがあり、そのなかに「お客様に関する方針」があります。一般的にこの業界では、介護を受ける方をご利用者様などと呼ぶことが多いのですが、弊社では、ご本人はもちろん、ご家族や住んでいる地域の方々も含め、感謝の気持ちを込めて「お客様」と呼ばせていただいています。お客様第一主義、そして人を大切にすることを企業理念としています。
「ずっとお家プロジェクト」は創業時から大切にしている考え方が表れたものの一つ。介護サービスを受けられる方が、住み慣れた街や家から離れることなく快適な暮らしが実現できるようにしたいと考えています。
そして企業理念から考えれば、採用をメインに業務を行う私たち人材開発課にとって、従業員はもちろん、応募してくれた学生さんや内定者も「お客様」です。「できるだけのケアができるよう、互いにコミュニケーションが取れる環境をつくりたい。セントケアの想いに共感して入社してくれた人たちを全力でサポートしていきたい」と考えていました。
しかし、内定者にはどうしても一方通行の連絡になりがちです。特に、新卒社員については全国各地にある地域事業会社に配属されるため、配属後は物理的な距離によって状況把握が難しくなってしまうのが現実でした。もちろん、定期的な研修などは行っていましたが、各地へ配属された後はなかなかサポートできず、時には退職という事態になるまで状況がわからない場合もあったのです。地域事業会社から「人を育てるために具体的に何をしたらいいかわからない」「人材開発課からのケアがもっと欲しい」などと言われることもありました。
そこで、会社として何か仕組みを整えられないかと模索し、専用のHRシステムの導入を検討し始めたのです。
必要な機能とサポート体制、そしてコスト。欲しいものが揃ったHRシステムとの出会い
一番の課題は現状把握でした。介護という仕事は人が相手のため、人間関係のトラブルはつきものです。同僚や直接の上司には話せず、相談先がわからずに悩んでしまう新卒社員もいたと思います。悩みを解決できずに退職してしまうこともありました。状況をしっかりと把握し、新卒社員が抱える問題を解決するためにもシステムの必要性を感じ、HR EXPOなどイベントにも参加。その後出会ったのが、HRシステム「MotifyHR」です。
また、弊社では新卒社員が入社する前に、内定者課題というものに取り組んでもらっています。これは知識を得るだけでなく、内定者同士の交流も見込んでのものですが、実際は人材開発課からの一方通行の連絡になりがちでした。「内定者からも発信してほしい、内定者同士の交流の活発化も狙いたい」など、つながりを生み出すことも課題となっていて、それに対してもシステムの活用で改善できるのではないかと考えました。
MotifyHRに備わっているエンゲージメントやオンボーディングなどに対する機能は、弊社の課題に直接かかわることばかりで、求めている内容が網羅されていました。さらに、どんなに優れたシステムでも機能を使いきれないと意味がないという不安がありましたが、その点についてもしっかりしたサポート体制が準備されています。ちなみに弊社ではサービス現場での業務が多く、従業員全員がデスクでパソコンを使用している環境ではありません。そのため、スマホアプリでも使えるのは大変便利で、全体のコストも予算に見合うものでした。HRシステムを選ぶ際には、こうした自社の条件にマッチしたものを選ぶことも重要だと思います。
デジタルネイティブが対象だから導入はスムーズ。確認や使用の習慣化が成功の秘訣
通常、新しいシステムの導入時には何かしらトラブルや反発があるものです。しかし、今回は対象者が新卒社員や内定者だったので、世代的にデジタルネイティブ。インストールや登録はまったく問題ありませんでした。ただ、導入前まで他のメッセンジャーアプリを使ってやりとりを行っていたため、新卒社員がどちらを使って連絡を取るかを迷ってしまうという場面もありました。そこで基本的にはHRシステムの使用のみに限定し、通知やリマインドを見逃さないよう促していくことで、習慣化させていったのです。連絡もHRシステムに一本化したことで、その後はとてもスムーズに浸透していったと思います。
使用を開始してから一番反応が多かったのは、実は各地域事業会社からでした。これまでは人材開発課が持っている情報自体が少ないためにサポートも限られたものでしたが、今では毎月のエンゲージメントレポートや面談結果についてフィードバックできるようになりました。新卒社員一人ひとりの情報を詳しく把握し共有できるというのは、私たち人材開発課だけでなく、地域事業会社にとっても大変有効なものだったのです。人材開発課だけが必死にシステムを使おうとするのではなく、他の部署も期待して報告を待ってくれているという状況で、全社一丸となって人材育成を行う姿勢が整いつつあると思います。
また、HRシステムの導入は新卒社員自身にも多くのメリットがあります。既存社員のプロフィールを見ることで入社前から会社の様子をSNS感覚で知ることができ、仲間意識が育まれ、安心感につながっていると思います。プロフィール欄を活用して自分の趣味などを公開することで、互いに親近感も生まれているようです。
導入後には多くのメリットが。さらに個性的な使い方で楽しみも生まれる
導入後は状況把握によって、これまで読めなかった休職や退職の気配を感じられるようになり、事前に会社からアクションを起こすことが可能になりました。また、現場の各地域事業会社では、今まで以上に意識して対応してくれるようにもなっています。会社全体が積極的に新卒社員に向けて何か改善点はないかと意識し動くようになったのです。
これまでなら人材開発課に回ってこなかった些細な課題やトラブルを教えてもらえると、悪化する前に改善できますし、何よりコミュニケーションが高まります。小さな情報を共有できるのは、想像以上のメリット。従業員同士の関係性が向上し、風通しのよい環境につながります。また、HRシステムを使った面談など、専用ツールを準備してサポートしていることは、就職活動を行っている学生さんに対していい印象を与えますし、採用担当として強みにもなるのです。
各地域へ配属後は、疎遠になりがちな新卒社員とも密に連絡を取ることができます。もちろん、人によってコミュニケーションの頻度は異なりますが、エンゲージメントレポ―トによって大まかな状況がわかるので、必要に応じた連絡や、疎遠になりがちな相手への連絡もしやすくなるというのがいいですね。
さらに、思いがけない楽しみもあります。卒業時期に内定者のプロフィールが袴姿の写真になっていたりすると、私たちもそこで季節を感じられたりと、直接的ではなくてもコミュニケーションが生まれている気がするのです。HRシステムをInstagramやFacebookのように気軽に使ってもらえるとこちらも嬉しいですね。
従業員同士の関係にも大きく影響を与えるHRシステムを、今後も範囲拡大しつつ活用していく
今後もHRシステムによって、内定者や新卒社員、そして私たち従業員のつながりが深まり、不満や不安を解消できるような体制を引き続きつくっていきたいと思います。また、現状は新卒社員と内定者のみの使用ですが、将来的には既存社員への活用も検討していきたいと思っているところです。
人材開発課の採用担当として一番嬉しいのは、新卒社員に「セントケアを選んでよかった」と思ってもらえることです。そのためには、私たちだけでなく、会社全体で取り組むことがとても大切だと実感しました。そのために今後も人材開発課が先導して会社全体を巻き込んでいきたいですね。そして、もっと多くの応募者の方に集まってもらい、セントケアのよさを伝え、素晴らしい仲間を募っていきたいと考えています。
まとめ
長く続くコロナ禍や働き方の変化によって、人事や人材育成には予測のつかない多くのことが求められ、変化のスピードも増しています。それらに柔軟に対応していくことが、これからの企業には求められるでしょう。その一つがリモートワークや全国に散らばる拠点での業務などです。それぞれが離れた場所にいて直接顔を合わせることが難しい状況でも、円滑なコミュニケーションを可能にしていくのが、HRテクノロジーなのです。
HRシステムの活用によって、内定者や新卒社員との絆を育むことに成功したセントケアの事例は、育成にかかわる人事担当者に多くのヒントを与えてくれるはずです。
セントケア・ホールディング株式会社
人事部 人材開発課
吉田 祐菜 氏