人手不足で人材募集の広告を打っても人が集まりません。そこで、従業員から就職希望者を紹介してもらい、採用した場合に報奨金を出す制度を導入しようと思っています。しかし、コンプライアンスの観点から同じような制度をやめた企業もあると聞きました。なんらかの法律に引っかかる恐れはあるのでしょうか?
【結論】
人材不足は経営者にとって深刻な悩みです。ご相談内容のような採用制度を『社員紹介制度』『縁故採用』『リファラル採用』などと呼びます。これらの制度が労働基準法などの法律違反に直結するかといえば、そんなことはありません。ただし、採用の際には注意が必要です。
“業”として報奨金を受け取ることはNG
従業員の募集には以下のような形態があります。
(1)文書募集
新聞や雑誌などの求人広告を利用した募集形態
(2)直接募集
自社ホームページや従業員を通じて募集する形態
(3)委託募集
人材紹介会社など第三者からの委託紹介による募集形態
今回のような社員紹介制度は(2)に該当します。
制度導入にあたり、報奨金を設定する場合は、労働基準法第6条に抵触しないよう注意しましょう。同法では、職業安定法や労働者派遣法に基づく許可や届出なしに、労働者の紹介を業としたうえで利益を受け取ることは認められていません。ポイントは“業”、つまり営利目的で同種の行為を継続的に行っているかという点です。通常、従業員による労働者紹介は第6条の対象外行為とされ、報奨金が利益とみなされることはありません。ただし、継続的な報奨金の授受が認められたり、報奨金の金額が過度だったりした場合、業とみなされる恐れがあります。
制度を導入する場合は就業規則の見直しを
職業安定法40条でも、社員募集を受託した者に対して、報奨金などの報酬を支払うことを原則禁止しています。法に抵触することなく報奨金を支払うには、報奨金の立場を就業規則などに明記しておく必要があります。たとえば、手当として扱ったり、報奨制度の1項目としたりする方法があります。注意したいのは、報奨制度とした場合、制度の明記が法定義務となることです。従業員が10名以上いるなら、労働基準監督署への届け出も必須です。
制度導入にあたって、就業規則の見直しは避けて通れません。支給条件や支給金額をはじめ、入社後の在籍期間など対象となる従業員についても定めておけば、制度の透明性は格段に上がります。支給回数なども決めておくことで、労働基準法の“業”にあたると指摘される可能性も低くなります。また、規則作成の際には、現行規則と追加される内容が矛盾しないように気をつけましょう。
社員紹介制度は(3)の委託募集、つまり業とみなされる危険性のある制度です。その点をよく考慮して導入を検討しましょう。また、制度導入の際は、所轄の職業安定所や労働基準監督署で、制度設定に問題がないかを確認することをおすすめします。