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普通はオフィスにある「あれ」はどこに?それは徹底的に効率化を求めたからこその答え ~さよなら電話・紙・メール編~

依然として終息の見通しがつかない新型コロナウイルスの感染拡大。緊急事態宣言は解除されたものの、私たちの社会活動は甚大な影響を受け続けています。そんななか、少しでも安全に経済活動を続けるためにテレワークの継続を決めたり、新たに導入を始めたりするなど、各企業の働き方も確実に変化。これまでの常識が変わる「ニューノーマル」な働き方が求められています。

そして、こういった働き方の変化に企業としてどう対応するべきか、多くの経営者や人事担当の方々が迷いや悩みを抱えているのではないでしょうか。

このコロナ禍の前から、既成概念に囚われない独自の方法で着実に生産性を上げ、テレワークも部分的に導入していたという企業があります。その方法とは、一般的なオフィスなら大抵準備されているモノを使わないということ。普通なら「職場にこれがないなんて!」と、多少パニックになりそうなモノばかりを徹底的に使用不可としたのです。

その企業は、Chatwork株式会社(以下、Chatwork)。利用者数、知名度ともにトップクラスのクラウド型ビジネスチャットツールの開発・提供を手がける企業です。今回はChatworkの取締役副社長COOである山口勝幸氏に、効率化を図るために実行してきた、その驚くべき方法についてお話していただきます。

この記事は2020年7月に取材した内容をもとにしております。

究極の効率化を求めるからこそ、電話も、紙も、メールすら、徹底的に使わない!

Chatworkでは、原則として電話、紙、そしてメールを使いません。そういうと驚かれることも多いのですが、これは実は20年前の創業時から行っていたことで、私たちにとってはもはや当たり前。そして、その理由はとてもシンプルです。

2000年に学生企業として創業したChatworkにとって、時間の確保、情報の共有は最優先事項。少ない人数で業務をこなすためには、究極の効率化を図っていく必要がありました。しかし電話などはこちらの都合など関係なくかかってきます。それはある意味、時間を奪う凶器のようなもの。せっかく作業が波に乗っていても、電話一本ですべて崩されてしまうのです。次に紙の資料、これは社内での情報共有ができず、アウトソーシング(※)にも向いていません。一般的なビジネスパーソンが資料やモノを探す時間はなんと年間150時間にも及ぶそうです(大塚商会調べ)。紙がなければそういった無駄の多くを省くことができるはずです。そして意外に思われるかもしれませんがメールも禁止。実際メールは、チャットなどのコミュニケーションツールに比べて検索しづらく、利便性に欠けています。タイトルや不要な挨拶文など、手間に思っている方も実は多いのではないでしょうか。これらの理由から、Chatworkでは電話・紙・メールを基本的に禁止してきたのです。

その根底には、私たちが掲げる「働くをもっと楽しく、創造的に」という企業理念があります。人間は仕事が楽しくなるような、やりがいのある仕事にできるかぎり注力して、それ以外の作業、特に雑務はできるだけITが受けられるよう、チャットツールをメインに使う環境整備を進めてきました。

もちろん、当初はクライアントから「なぜ電話がないのか」「メールを送ったのに」ということもありましたが、最初からチャットツールでのやりとりが基本ということをお伝えし、戦略的にブランディングすることで、大きなトラブルもなく理解を得られました。そしてもちろん、日々のやり取りだけでなく、カスタマーサービスにも効率化を取り入れています。よくコールセンターを設置している企業がありますが、これだと問い合わせが増えればコールセンターの人員も面積も増やさなくてはなりません。そうなると、売上と同時にコストも増えてしまう。結果として利益は上がらないんです。そのため、Chatworkではコールセンターではなく、チャットセンターを設置しています。

ただし、今はコミュニケーションツールも多種多様です。特に社内でどのツールを使うのかを明確に決めていなければ情報が散漫になり、現場が混乱してしまうことにもなりかねません。ツールと使用ルールを決定し、指針を示すことは、経営者や上層部の重要な責任です。

時間の壁を超える働き方を可能にしたのがチャットツール

私たちが効率化を求めて実践していることのなかに、「時間の壁を超える」という働き方があります。例えば、デザイナーに何か修正を依頼するときに、相手を探して説明するのではなく、修正部分を録画してチャットで送っておくという方法です。この方法なら互いの時間を合わせる必要もなく、伝え漏れもありません。伝える側は思いついたときに録画・伝達ができ、受け取る側も自分の都合のよい時間に確認し、作業することができます。

さらに、長い動画の場合はそのまま送るのではなく、ネット上にあげておきます。そうすることでパソコンへの負担を軽くすることができ、内容によっては早送りで確認も可能。情報だけを共有できればいい場合には、大変効率がよいのです。

チャット至上主義ではない。「意識の共有=同期」と「情報の共有=非同期」の使い分けが重要

ここまでの話だと、すべてをチャットで行い、リアルではやり取りをしないと思われることもありますが、それは違います。社内でもそのあたりを履き違えてしまいトラブルになることがありました。大切なのは、意識の共有と情報の共有は全く違うものと理解すること。感情が加わる話、意識の共有が必要な話の場合は、チャットではなく直接話をする必要があるということを分かっていないといけない。チャットは便利なツールですが、万能ではありません。

電話もメールもないのではなく、効率を求める時には使わないということ。その使い分けができるよう、社内でもルール化し、人材育成を行っています。効率だけを求めすぎてしまうと、確実にコミュニケーションが不足し、新しいものは生まれないでしょう。

私たちはこれを、同期・非同期と呼んでいるのですが、「ここぞ!」という時や感情的な話になりそうな時、対面が必要だと思った時は意識の共有=同期として、直接やりとりをするようにしています。それ以外のホウレンソウなどは情報の共有=非同期として、チャットを使って互いの時間や場所に関係なく共有作業を行うのです。こういった業務の進行方法によって、さらに効率を高め生産性を上げる仕組みをつくっています。

まとめ

冒頭でお伝えしたように、私たちChatworkでは電話・紙・メールをなくすことで究極の効率化を図りつつ、同期・非同期の使い分けで生産性の向上と社内コミュニケーションの構築を行ってきました。創業時から続けてきたこの試みがあるからこそ、このコロナ禍の状況でも各自のパフォーマンスを下げることなく業務を進められていると言えるでしょう。


普通のオフィスではあるのが当たり前の電話・紙・メール。効率化のためにそれらをなくすというのは、まさに目からウロコの発想です。次のインタビュー記事では、もともとテレワークを取り入れていたChatworkのコロナ禍で見えてきた新たな課題や、それに対する対処方法など、具体的な取り組みについてお伝えします。

Profile
山口 勝幸 氏

Chatwork株式会社 取締役副社長COO(Chief Operating Officer:最高執行責任者)。SI・制作会社勤務を経て、ITサービス提供事業会社でサービスと組織マネージメントに従事。2008年にChatworkに入社、CMO(Chief Marketing Officer)としてビジネス部門を統括。2019年3月に取締役副社長COOに就任。