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【第6回】部下に「権限委譲」していきたいのですが、プロジェクトがなかなか上手く進みません…。

今回のテーマ
「人事」の観点から会社をよくしたい、リーダーのための変革指南

近年、CHRO(最高人事責任者)という役職に注目が集まっています。企業の目標達成に向けた経営戦略を「人事」の観点から考え、実行するリーダーのことです。自社の事業内容を理解した上で、「経営者目線」になって人事戦略を考えていくと、さまざまな課題に突き当たります。2019年1~3月にかけて日本CHRO協会が行ったアンケート結果によると、「経営課題解決に向けCHROや人事部門が取り組むべき課題」として下記のようなものがあります。

  • 次世代リーダーの育成・登用
  • 管理職のマネジメント力・リーダーシップの強化
  • 社員のマインドチェンジ
  • 社員のモチベーション向上

これらの課題に対して、企業のリーダーである経営者、役員はどう判断し、どのような行動にうつしていけばよいのでしょうか。『電撃人事エグゼクティブ』石坂聡氏よりアドバイスしていただきます。


Q.部下に「権限移譲」していきたいのですが、プロジェクトがなかなか上手く進みません…。

トップダウン型組織から役職のないフラット型組織に変えていこうと全社的に取り組んでいますが、なかなか「権限委譲」がうまくいきません。特に現場でプロジェクトを先導する立場にある中間管理職に、思い入れの強い案件で自ら細かいところまで確認を求めているケースが多いようです。その影響で決済などのスピードが遅れ気味で、担当のモチベーションも下がり気味です。結果としてプロジェクトがスムーズに進行せず、何とかしたいと考えています。社内の意識をどのように変えていけばよいでしょうか。(製造業・社長・200名規模)

A.正しく「権限委譲」の定義づけをし、上司は託した担当者に最後までやり遂げさせることが大事。人事は公平な立場からプロジェクトの進行を確認し、うまくいっていない部門にはアドバイスを。

まず始めに、このケースの場合「そもそも『権限委譲』が正しくされていない」という問題があります。社長としては「権限委譲」をしていきたい、しかし実際には、プロジェクト責任者である一般社員に対して、やりとりしている中間管理職がマイクロマネジメントしてしまっているということですね。おそらく、この中間管理職が「権限委譲」について正しく理解できていない可能性があります。

もし「上司が細かいところまで口を出す」、「現場の担当者の意思で決められない」、という状態であれば、すでにその時点で正しく「権限委譲がされていない」状態であると言えます。「権限委譲」とは、立場が上で任命責任のある人が、任命した人にプロジェクトなどを信じて託すことです。

「任せたのだから後は知らないよ」ではなく、任命した上司には最終的な成果について責任を取る役目があります。しかし、実際に行う内容については担当者を信じて託したのであれば、「君に任せたから、思う存分やってみろ」とすべて任せて、最後までやり遂げさせることが重要です。結局は、上司が自分のやりたいように指示して部下にやらせるのであれば、それは「権限委譲」の名前を借りた「仕事の押し付け」に他なりません。

ここで気を付けていただきたいのが、部下に任せたからといって何でも好き勝手にやらせたままでよい、というわけではありません。上司は部下に対して、どこまで部下が進めてどの段階で上司に確認してもらうか任せる範囲を決めましょう。たとえば、やり方は部下に任せても上司へ定期的に進捗報告する、などその後のフォローも大切です。

会社のリーダーが自ら「権限委譲」の本来あるべき姿を説明し、理解してもらうことが大切

今の日本企業には、このタイプのリーダーが多く見受けられる気がします。上司は部下に対して自分がイメージする通りに動いてほしいのに、その通りにならないから口を出したり、自分が思うようにできないから代わりに部下にやらせたり…。これでは正しい「権限委譲」とは言えないと思います。今回のケースでは、そういった悪い意味での旧態依然とした日本企業にはしたくないからこそ、社長自らご相談いただいたのだと思います。

では、正しい「権限委譲」とは、そもそもどういったものなのでしょうか?社長が、社内で本当の意味での「権限委譲」をしていきたい、と考えるのであれば、まず「権限委譲」の意味をしっかりと定義づけする必要があります。そして、どのように部下に任せて、どの部分を上司が管理して会社の事業やプロジェクトの品質、スピード、成果を担保していけばよいのか、具体的なルールや改善策を用意しておくとよいでしょう。

たとえば、月の上限〇〇円までであれば主任権限で発注してよい、営業部門なら〇〇円までであれば割引を適応させてもよいなど、任せる範囲を明確に。

ただし、先ほどの繰り返しとなりますが、必ず上司には進捗報告など状況を共有すること。くれぐれも任せっぱなしで上司は何も知らなかった、ということがないようにしてください。また、上司自らがルールを覆すようなことはしないようご注意ください。

権限委譲を推進するために社長がやるべきことは、中間管理職層の社員がマイクロマネジメントを行っていないか定期的に確認することです。もしマイクロマネジメントをしてしまいっている中間管理職層の社員がいれば、「権限委譲がうまくできていないようにみえるよ」と気付きを与えてあげましょう。

社長自らのメッセージで伝えることも大切ですが人事部門にも協力してもらい、公平な立場かつ客観的な第三者の意見として中間管理職層にアドバイスしてあげるのも有効だと思います。このように地道ではありますが、任命された部下が「決断」をしてプロジェクトを進められるよう、常に声掛けし働きかけていくことが大切です。

一方で、任命される部下側にも気を付けるべき点があります。上司をはじめ経営者、役員など自分より立場が上の方と一緒にプロジェクトを進めている場合で、何か決定する際に「この内容で問題ないですか?」と、お伺いを立てていませんか?

「権限委譲」において、部下がどこまでの範囲であれば「決断」してよくて、どのような場合に上司やさらに役職が上の方に確認をとるべきか、ルールが明確になっていないからこのような状態がおこりえるのです。まずは部下が「決断」できる範囲を明確に決めたうえで、部下にも「あなたはどうしたいのか結論をもってプロジェクトを進めるように」とアドバイスしてあげるとよいでしょう。

「決定」しなければ「権限委譲」もできない?!「決めるという文化」社内にを定着させよう!

もう1つの大きな問題としては、特に日本企業の場合、「決める」という文化に慣れていないということがあると思います。あるアメリカの経営者が言った言葉で“A bad decision is better than no decision.”というものがあります。「悪い決断の方が、何も決断しないよりまだマシだ」という意味です。

せっかく部下にも決定権が与えられているのに、決断すべきときに決断できず、何も決めないままダラダラと結論を先延ばしにされてしまっては、上司も心配になって任せきれないですよね。立場が上の人も下の人も、「任せるなら任せる、任されたのなら決める」、と立ち位置を明確にし、そしてその状況を「よし!」とする会社の文化がないと、「決めるという文化」は根付いていかないと思います。

この文化がないまま「権限委譲」という言葉だけが社内に独り歩きしてしまうと、実質を伴わないため、結局はタスクを割り振っているのと同じ状況になってしまいます。これでは、「権限移譲」とは言えないですよね。こうなると、下の立場の人がかわいそうですよね。何度もやり直しさせられることになってしまうので、とても非効率です。

部下が安心して「決断」できるよう「心理的安全性」が担保されている組織づくりを

ここまでルールを明確にして整備したとしても、任せた中間管理職、担当者である一般社員が「決める」ことに躊躇しているようであれば、躊躇するだけの何らかの不安要因があるはずです。たとえば「勝手に決めたら、社長や上司に怒られる」とか「決めたことに対して周囲からいろいろ文句を言われる」など…。

こうした不安要因を排除するには、社長自らの言葉で安心させてあげるのが一番です。チームのパフォーマンス向上のためには、「心理的安全性」を高める必要があります。ここで言う「心理的安全性」とは、一緒に働いているメンバー一人ひとりが恐怖や不安を感じることなく、安心して発言、行動できる状態であることを言います。

社内の状況を振り返ってみて、いかがでしょうか。発言、行動した担当者が周囲からあれこれと言われて居心地が悪そうにしている、という場面に心当たりはありませんか。もし、そうであれば言われた本人はもちろん、その様子を見た他の社員も、積極的な発言や行動を躊躇するようになってしまうでしょう。

そこで、社長や人事部門の腕の見せ所となるのが、いかに社内の「心理的安全性」を担保して社員が安心して発言、行動できる環境にし、「権限委譲」の文化を社内に根付かせていくか、ということです。たとえば、経営会議の場で説明し浸透させる、実際にプロジェクトを確認してきちんと権限委譲されているか確認、指摘するなど…。人事部門にも協力してもらい、定着させるための取り組みとして、成功している部門の事例を社内に共有したり、専門知識やノウハウを持つ外部講師を招いて研修したりするとよいでしょう。

社長をはじめ役員、ビジネスにも絡んでいるCHROクラスとなれば、経営会議などで社内のいろいろな状況がよく見えるはずです。うまくいっていないプロジェクトがあれば、「権限委譲」が正しくなされていない可能性があります。状況を正しく把握して、「権限委譲」がうまくいっていない場合は、プロジェクト責任者に「決断」することを促し、本来あるべき姿に直して、物事をスムーズに進められるようサポートしてあげましょう。

電撃人事エグゼクティブからの金言

  • 担当者が決断できる範囲を明確にし、ルール化する
  • 責任は取るが、やり方は担当者に任せて最後までやり遂げさせるのが本来あるべき「権限委譲」
  • 託された担当者も細かく上司にお伺いを立てないこと
  • 社員が安心して発言できる「心理的安全性」が高い職場にする
  • 会社としても決断を先延ばしにせず、「決める」ことに慣れていく風土をつくる
  • 人事のリーダーが率先して社内に「権限委譲」の文化を根付かせられるような活動をすると効果的

今回の回答者
石坂 聡氏 Ishizaka Satoshi
(Asian Caesars 代表)

HRコンサルタント協会 理事。
外資系金融機関の人事部長を歴任。2013年にコカ・コーライーストジャパンの常務執行役員人事本部長に就任し、約30社の人事制度統合、企業文化改革、多大なるシナジー創出などを短期間で実現。電撃人事エグゼクティブとして名を馳せた。2017年10月にAsian Caesarsを立ち上げ、人事改革とグローバル人材育成のエキスパートとして、人事顧問サービス、エグゼクティブコーチング、講演など幅広く活躍。大手企業のリーダー達への変革指南で多忙な日々を送る。


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