入社3年以内の新卒社員が退職する割合が3割を超える昨今、新卒社員だけではなく、中途社員の退職を防ぐことも企業にとって重要な課題となっています。労働人口が減少するなか、採用した人材が組織に定着してもらうことは、急務といえるでしょう。
今回は、企業の「人間関係」や「オンボーディング」「エンゲージメント」について、石坂 聡氏(Asian Caesars CEO)、広瀬 元義氏(株式会社アックスコンサルティング 代表取締役)に対談いただきました。
目次
※イニシエーション:採用試験、面接、入社前研修など入社に必要な通過儀礼
仲間意識を育む環境はそこにあるの?
今回は私たち二人だから話せることをお話ししたいなと思います。最近多くの会社が積極的にオンボーディングに取り組んでいますが、改めてオンボーディングの定義について考えていきたいと思います。まずオンボーディングの意味についてお話しいただけますか?
オンボーディングは広い意味で、新しく仲間に加わったメンバーが、社内で良好な人間関係を構築できるようにし、チームの一員として、順応、育成、定着を行うための一連のサポートするプロセスのことですね。
私の受ける印象としては、多くの企業や経営者がオンボーディングを正しく理解していないような気がします。企業と個人が手を取り合って成長するという前提ではなく、いまだに、”雇ってやっている”というスタンスの企業が多い気がします。
そうかもしれません。ただ最近は労働人口の減少から、どの企業も人が採用できないためか、採用サービスの広告が増えてきているように感じます。
ところが、このように今まで以上にコストやパワーを掛けて採用しても、ちゃんとオンボーディングできなければ定着せず、結局また辞めていってしまい、すべてが無駄になってしまいますよね。
多くの企業でそのことに気付いていなかったり、見て見ぬふりをしているように思います。たとえば、とても単純であたりまえのことなのですが、オンボーディングは初日が一番重要ですよね。海外の話だと、月曜日に入社した社員の退職率が一番高いそうです。
一週間のスタートの日は、会議や打ち合わせが多く、特に管理職やいろいろな業務を任されているベテランの先輩社員はどうしても忙しくなりがちですもんね。
その結果、新入社員が放っておかれてしまうケースが多いので、退職につながる可能性が高くなると思いませんか。
そうですね。放っておかれた新入社員は、私はこの会社に必要ないのでは…と感じてしまいますよね。理想としては、会社全体で新入社員を仲間として受け入れる体制が整っていることだと思います。
私もそう思います。会社全体で、オンボーディングの意味をしっかりと理解すること。そして新入社員が初日から放っておかれないようにすることが必要ですね。
特に受け入れのあるチーム、部門には、受け入れ前日までに誰が何をどのようにサポートするのか、何回か確認した方が良いかもしれませんね。
物理的にフォローする時間が取れないなら、会議などが多い週初めや月初め以外を入社日にするなどの工夫が必要ですね。すでにいる定着社員が新入社員を仲間として受け入れる気持ちと環境の両方が大切だと考えます。
そうですね!受け入れられる側に関しては、どのような気持ちで入社するべきだと思いますか?
イニシエーションを乗り越えてでも「入りたい」と思える魅力的な会社を創り上げていく
昔、ネイティブアメリカンの風習で、一人の若者が仲間として受け入れるための過酷な試練があったそうです。その一つが「自分ののどに弓矢の矢をあてる」というものです。少しわかりにくいですが、壁に弓矢を設置して、その壁からのびる弓矢に身体を押し当てていくのですが、当然血が出ます。彼が仲間になりたいという本気度を長老が認めてはじめて仲間になることができるというものです。
もちろん、このエピソードのように会社に命をかけろというわけではありませんが、早期離職防止を考えると、新入社員側も会社の仲間になるための覚悟を決める、何かしらの機会があるといいんじゃないかと思います。
一員として認められるためのチャレンジ、イニシエーション(通過儀礼)ですね!アメリカの有名なバイカーギャング、ヘルズ・エンジェルスってご存知ですか?
バイクに乗ったアメリカのギャング集団のことでしたっけ?対談で暴走族の話をして大丈夫ですかね(苦笑)。
たしかに…(笑)ギャングが、というより、私はアメリカンバイクが好きで、バイクについて調べているときに目にした話なのですが、このヘルズ・エンジェルスには、仲間だけが着られる革ジャンがあって、それを手に入れるまでには過酷なイニシエーションがあるそうです。
ただ仲間として認めてもらえると、特別な場所に招待されて、そこの重鎮的なおばあさんが革ジャンに刺繍をしてくれます。そのように会社にもたとえ大変な思いをしてまでもメンバーになりたいと思われるような、イニシエーションが必要だと思います。
少し俯瞰して考えれば、俺はこの会社で一人前になりたいんだ!という社員の多い会社が生き残っていくでしょう。きっとこれからはそういう企業が多くなるはずです。
そうあってほしいですよね!ところで、そのヘルズ・エンジェルスの話はテレビか何かでやっていたんですか?
ええ。たまたま子どもたちが見ていたドキュメンタリー番組で放送されていたんです。私も若い時にバイクに乗っていて、最近また乗り始めたところです。ハーレーに乗っているのですが、歴史が面白いんですよね。自転車が流行り始めて、ハーレーとダビッドソン兄弟が自転車にエンジンを付けたのが始まりです。
ええ。ハーレーダビッドソンは最初、なぜ自分たちのバイクが不良たちに選ばれるのかわからなかったそうです。だから直接彼らに聞き、彼らの意見を活かしてブランド化したんだそうです。今でも単にバイクに乗りたくて、その選択肢の一つとしてハーレーを選ぶのではなく、ハーレーに乗りたい、というファンが多い。その人気は大型二輪免許が必要な日本でも同じです。これもイニシエーションと言えるのではないでしょうか?そういうオリジナリティを企業が持てれば、社員も自ら飛び込んでくるでしょう。
イニシエーション=入社式ではなくて、イニシエーションした人だけが入社式に招待される。ということですね。そうすると、オンボーディングの最初の項目は、会社の魅力を伝えること。次にイニシエーションとなりそうですね。
入社前にその魅力に惹かれて入社を希望して、何らかの通過儀礼をクリアして、入社する。困難を乗り越えて入った会社だから、より一層オンボーディングされるでしょう。
それをうまく世の中に広めていきたいですよね。私の願いは、会社が楽しいところであること。上司と部下の関係も然り。どんな役割を果たそうとしているのか、そして、仕事は楽しいよね!と社員に感じてもらえることが、今の企業には必要なのだと思います。
一人ひとりが会社に貢献しないといけない。大きな企業になるほど、面倒を見てもらって当たり前という社員の割合が増える気がします。初心を忘れないとか、そういう思いは新入社員だけではなく、経営者、幹部はもちろん、全社員が持つべきです。社員の緊張感がなくなる前に、定期的なイニシエーションも刺激になるでしょうね。
確かにそのとおりですね。ここまでお話を振り返ってみて、会社全体で新入社員を受け入れ、育成するために大切なことは、新入社員を初日から放っておかないようにすること、イニシエーションを乗り越えてでも入りたいと思える会社づくりをすること、社員の緊張感がなくなる前に、定期的にイニシエーションを行うことですね。長期的な戦力となってもらえるよう、会社側は適切なオンボーディングを行うべきですね。
まとめ
新入社員の早期退職と労働人口の減少が叫ばれている中、社員の戦略化と定着はとても重要です。そのためには会社全体の取り組みとしてオンボーディングを実践すること。新入社員がいち早く戦力となり、会社に定着してくれるよう、みんなでサポートを行っていきましょう。中編へ続く
今回のポイント
- オンボーディングは初日が一番重要、新入社員を初日から放っておかれないようにする
- イニシエーションを乗り越えてでも入りたい!と思える会社づくりをする
- 定期的なイニシエーションが社員の気持ちを引き締める
【対談者】
石坂 聡氏
Asian Caesars CEO
2013年にコカ・コーライーストジャパンの常務執行役員人事本部長に就任し、約30社の人事制度統合、企業文化改革、多大なるシナジー創出などを、3年半という短期間で実現。2017年10月にAsian Caesarsを立ち上げ、人事改革とグローバル人材育成のエキスパートとして、リーダーシップ研修、人事顧問サービス、エグゼクティブコーチング、講演・講義など幅広く活躍する。
広瀬 元義氏
株式会社アックスコンサルティング
代表取締役
士業コンサルティングを中心に事業を展開し、1万件以上の会計事務所をサポート。2019年3月、企業における「人事」の課題解決を後押しするクラウドシステムを発売開始。会計事務所および経営者向けセミナーの講演は年間50回以上。これまで出版した著書は45冊以上、累計発行部数は48万部を超える。