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Vol.1 社員を幸せにすると、ビジネスが成功する理由とは『広瀬元義のエンゲージメントカンパニー』

成功こそが幸せだと思っていませんか?

人は誰しも“幸せ”になりたいと願っています。不幸になりたくて生きている人など一人もいないでしょう。では、経営者のみなさんの幸せとはなんでしょうか。自分の会社を成長させ、利益を上げることが幸せであり、それによって従業員も幸せになれると考えている人がほとんどと言えるでしょう。さらに言えば、「幸せは事業が成功しないとやってこない」と決め込んでいる人も多く見られます。つまり、幸せよりも成功を優先させているということになります。思い当たる人も多いのではないでしょうか。しかし、それでは決してあなたも会社も従業員も幸せにはなれないのです。

フランスの哲学者アラン氏の『幸福論』に「幸せと思う自分がいるから幸福になれる」と書かれています。成功の先にしか幸せがないと考えたり、成功しよう成功しようとおもえば思うほど、幸せから遠ざかってしまいます。

成功を優先させると幸せになれない理由は、成功には限りがないためです。たとえば、成功を収めても、次の成功のステップとしか捉えない場合、目標は永遠に現れ続けます。仕事や人生において目標を掲げることはよいことです。しかし、目標が目的となってしまうと心が休まるときがなく、苦しくなり、幸せな状態ではありませんよね。

幸福度の高いと生産性が上がり、離職率が下がる?

幸せには種類が2つあります。1つは「地位財」と言われ、以下のものが含まれます。

  • 金銭欲
  • 物欲
  • 名誉欲
  • 社会的地位

全て他人と比べられるものです。
これらの幸せは「もっと欲しい」という感情が生まれるため、長く続かないといわれます。

もう1つは、心の豊かさや健康、安全など、精神的・身体的・社会的に良好な状態からもたらされる「非地位財」といわれるもので、長続きする幸せといわれています。これからは、この非地位財を多く従業員に与えられる経営者こそが優秀な経営者であると評価されるのではないでしょうか。

「幸福学の父」とも称されるアメリカ・イリノイ大学心理学部名誉教授、エド・ディーナー博士らの研究によると、「幸福度の高い従業員の創造性は3倍、生産性は31%、売上げは37%高い」傾向にあるとされています。加えて、「幸福度の高い人は職場において良好な人間関係を構築しており、転職率・離職率・欠勤率はいずれも低い」という研究データもあります。また、アメリカの先進的な企業では「幸福を求めるための部署」が一般的になっているほどです。もはや、CHOという役職は最高人事責任者(Chief Human Officer)ではなく、従業員の幸せをマネジメントするものとなったのです(Chief Happiness Officer)。アメリカだけでなく、世界各国においても「幸福度」は科学的に分析され、ビジネスに取り入れられています。

幸福度の高い人材の特徴として、良い影響を他人に与えられていると自覚しているケースが多く、仕事の満足度はその人の視点によって大きく変わるといえるでしょう。また、幸福度の高い人を仲間にすれば、視野の広い考えやアイデアが思いつきやすくなります。なぜなら、ポジティブな感情を持った人は、視野が広く、情報の理解力も早いと言われているからです。つまり、幸せな従業員たちが会社を成功へと導いてくれるのです。

企業の価値観とビジョンを従業員と共有する

経営者は社員を幸せにするために、どのような仕組みづくりをすれはよいのでしょうか。それはとても簡単なことで、「価値観」と「ビジョン」を示すことです。

人はそれぞれ価値観がありますが、企業の価値観は明確かつ言葉にできなければなりません。そして価値観によって、人は行動が変わります。また、価値観を共有することで、「従業員同士」、「上司・部下」、「顧客」、「サービス」、「商品」、「お金」を結びつけることができます。

次に重要なのはビジョンです。ビジョンは「会社における理想的な状態を示したもの」だといえます。例えば、「世界一の製品を世に出すぞ!」「世界からガンを撲滅するぞ!」というストーリーを従業員たちに対して語りかけましょう。

価値観を共有し、ビジョンを持つことで「楽しく働くことが幸せにつながる」と従業員に伝えることができます。

誤解がないように申し上げますが、「楽しく」というのは何も「面白おかしく」ということではありません。「厳しい試練や、挑戦も楽しめる」ことも含めての楽しさという意味です。福利厚生などさまざまな制度で社員をサポートすることも大切ですが、なによりも企業の「価値観」と「ビジョン」が重要なのです。

「この会社で働きたい」「この人たちと頑張って、会社を大きく成長させたい」とそう思わせる価値観やビジョンを経営者が持っている、あるいは作り出すことができたら、従業員たちは自ずと積極的に行動を起こし出して成果を上げ、会社の成長へとつながることでしょう。

京セラ創業者である稲盛和夫さんは政府に乞われて倒産した日本航空の社長になった際、「この会社は従業員のために存在する会社である」ということを明示しました。稲盛さんは「(企業の幸せとは)従業員が本当に幸せになってくれること以外に目的はないんだ」とまで断言していらっしゃいます。

その思いが社員に通じたのでしょう。破綻から約10年、業績は急回復し、2019年には2年連続の増収増益となっています。誰もが幸せになるために、経営者と従業員が価値観とビジョンを共有したことで、どん底から抜け出して成功を得ることができた好事例です。

従業員それぞれの幸せに対応する

日本全体として、「ワーク・ライフ・バランス」というフレーズもすっかり定番となりました。生活の調和を保つという意味です。内閣府によると「国民一人ひとりがやりがいや充足感を感じながら働き、仕事上の責任を果たすとともに、家庭や地域生活などにおいても、子育て期、中高年期といった人生の各段階に応じて多様な生き方が選択・実現できる社会」と定義されています。社員が幸せになるための考え方として取り入れられているといえるでしょう。

しかし、最近のアメリカでは「ワーク(キャリア)・ライフ・フィット」という考え方が広がっています。これはワーク・ライフ・バランスの対義語で、仕事と生活のバランスがうまく取れなくても、自分の最適な生き方を見つけるというものです。たとえば、プライベートの充実よりも会社に10時間いるほうが幸せ、プライベートのために給与は低くなっても時短勤務を希望するなどが当てはまります。

幸せの捉え方は人それぞれです。従業員の個性や希望に合わせて柔軟に対応する時代となったといっても過言ではありません。どちらの考え方であっても、日本の企業は利益優先で、従業員を幸せにするという考え方がまだまだ浸透していません。それは何故かというと、そう言う逆転の発想へと導く文化が育っていないからです。

極論を言えば、会社は人生を豊かにするための道具でしかなく、人生そのものではありません。会社に支配され、仕事に時間を追われ、家族とも十分な時間を過ごせず、身体を壊したり、未来が見えなくなっては本末転倒です。

経営者も従業員も、会社と正しく向き合うことで人生が楽しくなり、その結果として幸せが得られるのです。そのため、経営者であるみなさまが、これまでの働き方を見返し、改める必要性があります。そして、従業員の幸せのそのためにエンゲージメント・カンパニーをめざす必要があります。次号以降、どのようにしてエンゲージメント・カンパニーを作り上げ、従業員を幸せにしていくかのヒントをお伝えしていきますね。