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Vol.2 天職とは何か?『広瀬元義のエンゲージメントカンパニー』

あなたにとっては天職、でも従業員にとっては?

この記事を読まれている人の多くは経営者の方々でしょう。社会をもっと良くしたい、貢献したい、思い浮かんだアイデアを実現したいなど、それぞれの熱い思いがあって起業に至ったはずと想定されます。そのため、あなたにとってはまさに“天職”といえるのかもしれませんね。しかし、そもそも天職とはなんなのでしょうか。辞書によると、「天から授かった職業。また、その人の天性に最も合った職業」と定義されています。

Vol.1でも申し上げましたが、誰もが幸せになるために生きています。働くことも幸せな生活を送るための手段の一つです。1日のうち、私たちは一般的に8時間働きます。多い人だと残業を含め、1日10時間以上働く人もいるでしょう。大人になると人生の大半の時間を働いて過ごし、人生の大半が仕事で埋め尽くされると言っても過言ではありません。

だからこそ、仕事は重要です。「なんの興味もない仕事に対して、忙しさに追われ、プライベートの時間はほぼなく、責任とプレッシャーで毎日を殺伐として過ごす」そんな日々を過ごしていた場合には、いずれ肉体だけでなく、心も病んでしまうことでしょう。幸せになるための手段の仕事なのに本末転倒ですよね。だからこそ、楽しくやりがいがある、自分に適した仕事を求めるのです。しかし、どれだけの人が天職と出会え、携われているのでしょうか。

経営者にとっては天職をより具体的にしたうえで、自分らしさを体現したのが起業だといえます。起業したことで、さまざまなアイデアが広がり、たとえしんどい時期すらチャンスと受け入れることができる可能性があります。では、従業員はあなたと同じ気持ちを持ってくれているでしょうか。彼らにとっても、あなたの会社で一緒に働くことは天職だと思ってくれているか、考えたことはありますか?

どんな仕事でも、働く人は3つにカテゴライズされる

アメリカの組織行動学の研究者エイミー・レズネフスキー教授によると、「人間の仕事観は大きく分けて3種類ある」と定義されています。その内容は、「ジョブ・レベル」「キャリア・レベル」「コーリング・レベル」の3つです。

ジョブ・レベルとは、「仕事は単にお金のためだけ、生きるためだけのもの」として考えているタイプです。仕事以外の趣味や余暇を楽しむことに重きを置いて、仕事が終わるのが今か今かと待ち遠しいと思う傾向があります。
キャリア・レベルとは、「今の仕事はキャリアアップのための手段である」と考えているタイプです。楽しく仕事もするし、優秀な人も多いですが、仕事半分プライベート半分と割り切っています。

コーリング・レベルは、「仕事自体にやりがいを感じ、就業時間以外でも仕事のことを常に考え、貢献したいという意欲が旺盛で、仕事がうまくいくだけで人生そのものに満足感を抱く」タイプです。コーリングとは英語で「神の思し召し」という意味があり、まさに天職ということになります。

その人にとってはやりたくないと思う業種の仕事でも、ある人にとっては天職ということがあります。だからこそ、世の中はうまくまわっているのでしょう。

アメリカの言語学者、サミエル・I・ハヤカワ氏が提唱した「抽象のハシゴ」という概念を表した逸話があります。前述した3つの働く意識の前提を考えながら想像してみてください。

「ある旅人が、レンガを積んでいる3人に出会います」
その3人に向かって、旅人は尋ねます。
「あなたは、何をしているんですか?」
1人目の男は、「いやぁ、ただレンガを積んでいるだけだよ」
と、ぶっきらぼうに答えました。
2人目にも同じように旅人は尋ねました。
「私は、教会の壁のレンガを積んでいるのさ」
と、答えました。また、同じように3人目にも尋ねました。
「私は、みんなが幸せに過ごせる場所を作っているのさ」
と、答えたと言います。

ハヤカワ氏が調べたところ、この3種類の仕事観は、どんな職業、どんな職種、どんな仕事内容にも同じ割合で存在します。言い換えれば「作業レベル」「目的レベル」「意義レベル」と置き換えられます。たとえば、労働時間が長い仕事、収入が低い仕事、命の危険を伴う仕事などの一般的には避けられがちな仕事と、誰もが憧れるエグゼクティブやエリートといわれる階級でも、この比率は変わりません。どのような仕事でも、目の前の仕事をジョブと感じる人、キャリアと感じる人、コーリング(天職)と感じる人の比率はほぼ同じです。つまり、どんな仕事も心持ちひとつで天職として楽しむことができるといえるでしょう。

全従業員をコーリング・レベルに引き上げるために

みなさんの会社の従業員にも、3種類の人が同じ数だけいると想定できます。そして、最も幸福度が高く、集中して仕事に取組み、やりがいを感じているのは最後のコーリング・レベルの人たちです。この人たちが多ければ多いほど、個人の成果が上がり、結果として会社そのものの業績もアップすることをご理解いただけるでしょう。そして、課題となるのは、ジョブ・レベルとキャリア・レベルの従業員です。彼らをどうやってコーリング・レベルに変え、今の仕事が天職であると意識を変えていくのかという点が経営者の役目・手腕の見せ所といえます。

仕事に意味や意義を見出し、スキルや能力を高め、会社や社会に貢献したいと感じることは、コーリング・レベルに達し、天職にたどり着いた証です。たとえば、社会全体に役立つ、または影響を与えるような仕事をすることでやりがいが出てくるでしょう。「この仕事は、いったい誰に、なんのために役立っているのかを考え、自分がその仕事の中でどういう役割を果たそうとしているのか」という前提を持つことによって、コーリング・レベル(天職)に近づけるのです。

仕事の楽しさは自分で追及できるもの

楽しく仕事をしている人が増え、「自分の仕事は重要で、社会の役に立っている」と胸を張って言える人が多いほど、会社は創造性を増して発展していきます。しかし、日本では、「What do you do?(あなたは、どんなことをしていますか?)」と訊ねられると、「〇〇会社に勤めています」「〇〇会計事務所に勤めています」というように、仕事内容ではなく、どこの会社に所属しているかを答える人が多いと感じます。それでは、いつまでたってもコーリング・レベルに達することはできません。

仕事に対する意識は自分で深めるものです。勤務先のネームバリューは関係ありません。仕事の楽しさは自分で追及できるものであり、それ自体が“やり抜く力”だということにみんなが気づいて行動に写せば、会社も社会も非常によくなっていくと思います。冒頭で、天職とは「天から授かった職業。また、その人の天性に最も合った職業」だと申し上げましたが、コーリング・レベルに達すれば、たとえ性質的に適していない仕事でも、後天的に天職と成りうるのです。