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サーバントリーダーシップの特性とは?具体例とメリット・デメリットを解説
公開日:2022.5.24
チームをまとめる方法の一つとしてサーバントリーダーシップという方法があります。
サーバントリーダーシップは従来の支配型リーダーシップとどう違うのかをよく理解し、サーバントリーダーシップの心構えを把握しましょう。
サーバントリーダーシップの特性やサーバントリーダーシップを取り入れるメリットとデメリット、さらにサーバントリーダーになる方法について紹介します。
目次
サーバントリーダーシップとは
サーバントリーダーシップとは、近年多くの企業や組織が取り入れ始めている新たなリーダーシップの方法の一つです。
「サーバント」とは「使用人」という意味であり、その名の通り使用人のようにチームのメンバーをサポートするリーダーを育成することが求められています。
1970年代にアメリカで提唱されたリーダーシップ方法であり、当時のアメリカは混乱が続いていました。そんな中でチーム、組織、そして国家や社会を強引に引っ張るリーダーへの不信感が募り、自分の利益のためだけを優先するリーダーではなく、組織全体をサポートし、導いてくれるようなリーダーが必要だという考えが広まっていきました。
これがサーバントリーダーシップの始まりです。
デジタル化、グローバル化が進んだ現代において、一人のリーダーが強引に組織を引っ張るという方法では早急な対応、他にはないような新しい対応ができなくなってしまいます。
サーバントリーダーシップを取り入れることでリーダーだけでなくメンバー全員の能力をフル活用し、生産性をさらにアップさせられます。
サーバントリーダーシップを取り入れる目的や実際に取り入れる方法、取り入れる際の注意点などを下記にて解説しています。
サーバントリーダーシップの10の特性
サーバントリーダーシップを提唱したアメリカのロバート・グリーンリーフ氏は、サーバントリーダーシップの10の特性があるとしています。
従来の支配型のリーダーシップにはないサーバントリーダーシップならではの特性をチェックしてみましょう。
傾聴
傾聴とは、組織のメンバーの話に耳を傾けるスキルのことです。
リーダーは自分の考えや価値観をメンバーに押しつけて強引に物事を進めるのではなく、メンバー一人一人の考えをよく聞くことが大切です。
話の内容だけを聞いて理解したつもりになるだけでなく、話しているときの仕草、話をしてくれたタイミングなどからも、メンバーの本当に伝えたいことを読み取る力が必要です。
共感
メンバーの気持ちに共感するスキルも必要です。
共感する力が高ければ、メンバーの立場から物事を考え、見られるようになります。
上記のようにメンバーの話を傾聴することは大切ですが、その考えを受け入れられない、共感できないといった態度を示すとメンバーからは信頼してもらえません。
結果大切な話し合いの場でも発言してもらえなかったり、同じ目標に向かって進めなくなってしまいます。
癒し
メンバーに癒しを与えるのもサーバントリーダーに求められるスキルです。
メンバーが失敗したり、上司に叱咤されたり、チーム内で意見が合わなかったりすると士気が下がってしまいます。
精神的にダメージを負うことで仕事へのモチベーションが下がり、パフォーマンスが低下することもあります。
そんなときにサーバントリーダーがメンバーを癒せるような言葉をかけられるかどうかは重要です。
メンバーの傷を癒すことができれば、メンバーのモチベーションをアップさせられるだけでなく信頼度も増し、このリーダーについていこうと思ってもらいやすくなります。
気づき
チーム内の些細な変化にも気づくことがサーバントリーダーシップにおいては大切です。
自分の価値観や偏見に囚われていないか、同様に自分の価値観に囚われすぎているメンバーはいないか、さらに普段しないようなミスが続いているメンバーがいないか、成果が上がっているメンバーがいないかなど、常にメンバーの変化に迅速に気づけるようになりましょう。
チームやメンバーの変化にすぐ気づけるようになれば、その都度迅速に対応できます。
メンバーが困っているときにすぐに手を差し伸べられ、チームの信頼度もアップします。
説得
メンバーを説得するスキルも必要です。
従来の支配型リーダーのように自分の考えをメンバーに押しつけるのではなく、双方が納得できるポイントを探し出し、それをきちんと説明した上で相手に納得してもらうスキルです。
そのためにはメンバーの話をよく聞き、リーダーとしての考えだけでなくチームのメンバーの立ち位置から問題を見ることが大切です。
概念化
チームが一つの目標に向かって進むことで、よりモチベーションや生産性がアップします。
そのためには目標やノルマ、ビジョンといったモチベーションとなるものを明確にメンバーに伝えなければなりません。
自分の中にある考えを明確に、メンバーにわかりやすく共有するスキルはもちろん、メンバーから集めたさまざまなビジョン、目標などを集めて一つの形にするスキルも必要です。
先見
サーバントリーダーには、先を見据えるスキルも必要です。
現在の問題を解決することだけに一生懸命になるのではなく、現在の問題を解決することで将来どのようなメリットがあるか、また、将来よりよい成果を出すためには現在の問題をどのように乗り越える必要があるのかなどを見極めなければなりません。
先を見通す力があれば、今後起こり得るトラブルを未然に防ぐことも可能です。「このような問題が起こる可能性がある」ということを理解しておけば、万が一トラブルが起きた際にも迅速に対応できます。
未来のことを考えるためには、現状をしっかり把握する力と、過去を顧みてそこから気づきを得る力も必要です。
執事役
「サーバント」には「使用人」という意味がありますが、ただ言われたことをするだけというよりかは、執事のように主人が快適に仕事に取り組めるようなサポートをするスキルが求められます。
リーダーだからといって自分の利益のためだけに行動するのではなく、自己犠牲の精神を持ち、相手の利益になることを考え、自分から優先してチームのためになる行動を起こす力が必要です。
成長をサポートする
サーバントリーダーシップには、自分のためだけでなくチームのことを考えるスキルが必要です。
常にチームやメンバーのためになることを考え行動することで、チーム全体、そしてメンバー個人の成長をサポートすることにつながります。
メンバーそれぞれに得意なこと、不得意なことがあります。
それらに敏感に気づき、メンバーの短所を責めるのではなく長所をしっかり伸ばし、よりよい人材に育成していくことが大切です。
コミュニティーを作る
サーバントリーダーシップはチーム内のコミュニティー作りにも貢献する必要があります。
チームを「一緒に仕事をする人たち」という枠組みに留めず、より信頼できる仲間にするためには、積極的にコミュニケーションを取る機会を作ることが大切です。
サーバントリーダーはときにメンバー同士のコミュニケーションをサポートし、幹事のような役割を果たさなければなりません。
チームを信頼できるコミュニティーにすれば、メンバー全員がチームのメンバーに愛情を持って接することができ、支え合う力も高まります。
サーバントリーダーシップのメリット
サーバントリーダーシップを取り入れることのメリットを4つ紹介します。
チームをまとめる力を身に着けたい、メンバーのスキルをもっと上げたいと考えている方はぜひ参考にしてください。
チームの生産性を上げる
サーバントリーダーシップを取り入れてメンバーをサポートするリーダーを作り上げられれば、チームの生産性を上げられます。
メンバー一人一人の意見と取り入れ、メンバーを大切にすることで、メンバーは「自分はこのチームに必要な人材だ」と自信を持てるようになります。「このリーダーの役に立てるような人材になりたい」と、業務にしっかり取り組めるようにもなります。
リーダーが自分本位ではなく、メンバーの自主性を大切にすることで、自然とメンバーの士気が上がっていきます。
顧客満足度を上げる
サーバントリーダーシップを取り入れることで顧客満足度を上げることも可能です。
チームのメンバーは、リーダーよりも現場の声をリアルに感じ取っています。その話をきちんと聞き入れ、現場を改善するための取り組みをおこなえば、メンバーの業務の環境が改善するだけでなく顧客を喜ばせることにもつながります。
顧客がその企業の商品やサービスを使いやすい、また使いたいと思えるようにするためには何が必要かを考えるためにはリーダーだけでなくメンバー全員の意見が必要です。
顧客満足度が上がればチームの評価だけでなく企業の業績もアップし、企業全体の成長にもつながります。
コミュニケーションが円滑に
サーバントリーダーシップを取り入れることでチームないのコミュニケーションがより円滑になります。
メンバーの発言をきちんと聞き共感し、チームの目標やビジョンに取り込むためには、チーム内でコミュニケーションを取る機会を多く取る必要があります。
普段のミーティングだけでなく休憩中や仕事終わりの飲み会など、プライベートでも接する機会を増やすこともサーバントリーダーの役割の一つです。
接する機会が多くなるとその分信頼度も高まり、業務におけるちょっとした報告などもしやすくなります。
このメンバー、このリーダーのためにがんばろうというモチベーションにもつながり、メンバー全員のパフォーマンスの工場にもつながります。
チームメンバーが自ら行動できる
サーバントリーダーシップを取りチームに目標やビジョンを共有することで、リーダー一人がチームを強引にひっぱるのではなくメンバー全員が同じ目標に向けて走り続けられるようになります。
その目標を達成するためには自分が何をすればいいのかということをメンバーが自主的に考えられるようになり、全員で協力し、かつ成長を支え合いながら先に進めます。
サーバントリーダーシップのデメリット
サーバントリーダーシップにはメリットがたくさんありますが、デメリットもあります。
人によっては向いていない可能性もありますので、デメリットも確認した上で取り入れるかどうかを見極めましょう。
決定までに時間がかかる
サーバントリーダーシップのデメリットとして、物事を決定するまでに時間がかかるという点があります。
支配型のリーダーは自分の意思一つで物事を決定できますが、サーバントリーダーの場合はチーム全員の意見を聞き、それをまとめた上で話し合って決定しなければなりません。
チームを構成する人数が多ければ多いほどこの作業にかかる時間は膨大になり、早急に対応を求められるシーンでは一歩遅れた対応を取ることになってしまいます。
場合によっては業務にも支障をきたす可能性もあるので注意が必要です。
知識のない人には不向き
業務において知識や経験が少ない人はサーバントリーダーには不向きです。
サーバントリーダーはメンバーの意見を取り入れ、上手にまとめなければなりません。
その業務に関するさまざまな情報を理解していなければ、見当違いなまとめ方をしてしまいかえってメンバーから反感を買ってしまう可能性もあります。
また、メンバー間のコミュニケーションの機会を設けたりメンバー間をつなげるのもサーバントリーダーの役割ですが、人とのコミュニケーションを取るのが苦手、主体的に人と関わることが苦手という人、それらの経験が浅い人にはサーバントリーダーは不向きです。
メンバーが脱落してしまう可能性も
サーバントリーダーシップはチームを引っ張るのではなくチームを支えるという方法です。
そのため、人に指示された仕事だけをしたいという人、知識や経験が少なく自分で考える力がまだ育っていないという人がチームにいる場合、サーバントリーダーのやり方についていけず脱落してしまう可能性もあります。
メンバーの自主性を大切にすることはサーバントリーダーシップにおいて非常に重要ですが、経験が浅いメンバー、新入社員、新社会人などが多いチームにとってはサーバントリーダーシップは不向きです。
メンバーもある程度知識や経験がある場合にのみサーバントリーダーシップはその本来の力を発揮します。
方向性を決めにくい
サーバントリーダーはメンバーの話をよく聞いてチームの方向性を決めていかなければなりません。
まったく違う意見が二つあると、それを上手にまとめるのが難しくなってしまいます。
どうしてもメンバーに折れてもらう必要がある場合はその説得方法をよく考え、メンバーが納得するまできちんと説明する必要があります。
方向性が決まりにくいだけでなく、方向性が決まるまでに多くの時間を要するというデメリットがあります。
とくにチームを作りたての頃はメンバーの意見も食い違いやすく、まとめるのに一苦労してしまいます。
サーバントリーダーシップの具体例
看護師長のサーバント・リーダーシップ(人間生活文化研究 Int J Hum Cult Stud. No. 29 2019)より
とくに近年、看護の組織でサーバントリーダーシップが求められるシーンが多いです。
看護師長がサーバントリーダーシップを取り入れることで組織が活性化するという効果も認められています。
看護師長がメンバーを叱責したり一方的に指示を出すのではなく、メンバーの意見に耳を貸し、協力していくことでよりよい成果を残せます。
サーバントリーダーシップを取り入れることでチームの関係がよくなるだけでなく、多くの患者の命を救う、そして患者の満足度を高められるようになります。
一方で早急な判断、対応が求められるシーンではサーバントリーダーシップは枷になる可能性もあります。すべてのシーンに対応できるリーダーシップは存在しないため、場面によって的確に使い分けるスキルを高めることも大切です。
サーバントリーダーになるためには
サーバントリーダーになるために大切なことを3つ紹介します。
メンバーの話をよく聞き、変化に敏感になり、そしてチームを支えられるリーダーを目指しましょう。
メンバーの話をきちんと聞く
サーバントリーダーはメンバーの話をきちんと聞く力が必要です。
自分の話をきちんと聞いてもらえたとき、人は満足感を覚え、かつ話を聞いてくれた人への信頼度が増します。
相手の話を遮ったり否定したり、さらに決めつけたりするのではなく、最後までゆっくり時間を設けて話を聞く機会を作りましょう。
肯定した上で共感する
サーバントリーダーは話を聞くだけでなくその話の内容に共感する力も必要です。
相手の話を聞いた上で否定したり自分の考えを押しつけたり、さらに見当違いなアドバイスをしたりすると、かえって信頼度が下がってしまいます。
「この人には何を相談しても無駄だ」と思われると、チームの人間関係も悪くなります。
メンバーがミスをしたり困っていたりしてもバカにせず、自分の過去の経験などを思い出しつつ共感する姿勢を見せましょう。
自身の変化に敏感になる
サーバントリーダーシップを取るには自身の変化に敏感になることも大切です。
自身のちょっとした変化に気づくためには、毎日自分の行動を振り返る時間を持つことがおすすめです。
いつもと違う部分があった場合はなぜそれが起きたのかを考えてみてください。
その結果、チームに何か異変があった、他のメンバーの行動が関係しているといった、自身以外の変化にも気づきやすくなります。
サーバントリーダーシップの反対は、支配型リーダーシップ
サーバントリーダーシップの反対には支配型リーダーシップが位置します。
サーバントリーダーシップと支配型リーダーシップの違いについて見てみましょう。
支配型リーダーシップとの違い
支配型リーダーシップは自分の利益を尊重し、ステータスや賞賛を得ることをモチベーションとしています。自身のリーダーという権力を持ってメンバーを支持しているというのも支配型リーダーシップの特徴です。
一方でサーバントリーダーシップは目標をメンバーと一緒に達成すること、メンバーに奉仕することをモチベーションとしています。メンバーと信頼関係を築いて一緒に進んでいくという点も支配型リーダーシップとは大きく違います。
支配型リーダーシップがリーダーを頂点とするピラミッド型であるのに対して、サーバントリーダーシップはリーダーが一番下からメンバーを支える逆ピラミッド型をしています。
支配型リーダーシップについては下記の記事にて詳しく解説しています。
サーバントリーダーシップを組織に取り入れよう
サーバントリーダーシップについてその内容やメリット、デメリットなどを紹介しました。
リーダーシップの方法は支配型が一般的でしたが、一人の人間が自身の利益のためだけにメンバーを引っ張るのには限界があり、メンバーの不満も溜まりやすいです。
一方でメンバーを支えて一緒に目標をクリアしていくサーバントリーダーはメンバーからも信頼を集めやすく、さらにメンバー個人のスキルやモチベーションを向上させるのにも役立ちます。
さまざまな価値観、考え方を受け入れる必要のある昨今において、支配型ではなくサーバント型のリーダーシップはさらに需要を高めていくことでしょう。
この記事を書いた人