オンボーディング Onboarding 「新卒社員」や「中途社員」が辞めない仕組みづくり
『オンボーディング』とは、新入社員をスムーズに社内に溶け込ませ、パフォーマンスを上げさせるための一連の仕組みづくりを言います。この冊子ではHR先進国であるアメリカ企業の事例も踏まえ、人材育成のための最新のメソッドを解説。
オンボーディングの具体的な取り組み方をご紹介しています。
HRの基本
公開日:2018.10.25
HRM(ヒューマンリソースマネジメント)の意味や目的、必要性を理解することで、人材育成の促進・組織戦略・人的資源管理などの課題や問題点が見えてきます。
混同されやすいHCMやSHRMとの違いや、HRMのフレームワークから業績最大化のためのマイルストーンを見つけましょう。
目次
HRM は、Human Resource Managementの略称で、人的資源管理や人材の管理の意味です。
かつての経営資源(商品や金銭)ではなく、人材を経営資源として捉えることが広まって耳にする機会が増えました。
HRMは特に、人材を有効活用するための仕組みを体系的に構築・運用することを指します。
具体的には、企業戦略を実現するために必要な人的資源を明確化して、採用・配置・育成・成果につなげることです。
HRMは人事部の業務とされていますが、部署内での人材配置や育成は現場のマネージャーのほうが詳しいことからも、人事部以外もHRMという考え方を知っておく必要があります。
先ほどお伝えしたHRMの必要性は何でしょうか。以前まで、従業員はコストとして考えられていました。しかし、人的資源管理という考えが広まるにつれ、現代では従業員は「コスト」から「経営における大切な資源」に変化してきました。
通常、会社はいくつかの部署からできており、目的に応じてそれぞれの業務を進めます。効率的にプロジェクトを行うために人材を配置する人事は、とても大事な存在です。しかし、効果的にプロジェクトを遂行するために行うことは、採用や人材の配置だけではありません。
人事は、OJTや研修などの教育、心理効果を用いて、個人の能力や協調性も育てる必要があります。人的資源管理は、人に注視し人を大切にする手法で、会社にとって必要不可欠な考え方として再注目されています。
今まで、HRMが提唱される前までは、「人のマネジメント」というと「PM」(パーソナル・マネジメント、人事労務管理)を指していました。先ほどお伝えしたように、今までは従業員は雇用主から「コスト」として考えられていました。
PM(人事労務管理)とは、人事管理や労務管理のことでHRM(人的資源管理)といわれる以前に浸透していた手法です。会社の業績向上や安定した経営のためには、労働力である「人」を管理する必要がありました。この観点から、人事と労務面を整備し、人の管理統制を行います。人事管理には、採用や適切な配置、給与、労働時間や休暇、教育、安全・衛生なども当てはまります。人事といえば、業務環境やそれに付随する事柄の整備とも捉えられていました。
しかし、人は日々成長するものであるため、育成できます。人のマネジメントは、大きな変化は起こりにくく、短時間で劇的に成長することは困難です。そのため個々にあったOJTや研修などの教育を通して、日々成長していきます。
そうした考えから、ここ10年くらいで、従業員に対する大きなパラダイムシフトが起こりました。いわば、人は教育・訓練や育成のあり方次第で、会社にとって非常に重要な資源になりうるという考え方です。それが、従業員をコストから、戦略的な資源として考えようという「HRM(ヒューマンリソースマネジメント、人的資源管理)」への発想転換です。HRD(ヒューマン・リソース・ディベロップメント)という用語が使われることもあります。
学習院大学教授の守島基博氏は、この先、会社に残された人材戦略は「社員の全員戦力化しかない」と語っています。将来、労働力人口が減少し、人材の質が低下すれば、優秀な人材にこだわる会社は必要な人材を確保できなくなる時代がやってくるでしょう。人事は社員全員を対象としたタレント・マネジメントを進めながら、同時に働き方改革を行うことも要求されます。人材の数に加え、人材の質の低下も大きな問題だと提唱しています。もし意欲をなくした人材がいれば、それだけでも戦力低下につながります。人材が職場に適応しているかどうかを把握することは、会社にとって重要な課題です。「キャリア採用時にみるべきは、その人の能力が最大限活用されるかどうかです。実は職場への適応のプロセスを現場任せにしている会社は少なくありません。人事は採用者の3年後のパフォーマンスをどこまでフォローしているでしょうか」と同氏は語っています。
そもそも、タレント・マネジメントを成立させるためには、明確な順序があります。最初に戦略があり、そのための必要な人材の要素が明確になり、その条件と供給される人材とを適合させることで人が選ばれる手段が必要です。社員全体に対してこの作業を行わなければなりません。とにかく優秀な人をまずたくさん確保するというやり方ではなく、その人に5年後に何をやってほしいかなど将来を見据えておく必要があります。会社が成長するためには、短いスパンでの育成、丁寧な人材把握、個々を正しく評価する仕組みが不可欠です。
かつてのPM(人事労務管理)の時代は、人はコストという考えでした。、現在では、人は業績を改善する非常に積極的な手段として、「戦略的な存在」と考えられることが非常に多くなっています。事前に個々の情報をしっかりと分析し、経営戦略に基づいて積極的な人事を行うと、従業員と会社の間に信頼関係が生まれ、お互いに期待する成果をあげられます。また、仕事を通じて研修の機会を付与すると、それによって人の無限の可能性を引き出せます。従業員を育成し成長させることは、会社にとって大きなメリットと成り得るのです。
混同されやすいHRMとHCMとの違いは、HRMは対象が「人」であるのに対し、HCMは対象が「人の能力」という点です。
HRMのResourceとは、【原材料=人】を指します。
HCMのCapitalとは、【資本=人の能力や経験】を指します。
他にもHRMに似たような言葉で、意味や使い方が違うものがいくつかあります。間違えないように確認しておきましょう。
それぞれの意味や目的の違いを見ていきましょう。※スマホは横スクロールで続きが見られます。
略称 | HRM | SHRM | HCM | TMS | PM |
---|---|---|---|---|---|
読み方 | エイチアールエム | エスエイチアールエム | エイチシーエム | ティーエムエス | ピーエム |
正称 | Human Resource Management | strategy human resource management | Human Capital Management | Talent Management System | Personal Management |
読み方 | ヒューマン・リソース・マネジメント | ストラテジー・ヒューマン・リソース・マネジメント | ヒューマン・キャピタル・マネジメント | タレント・マネジメント・システム | パーソナル・マネジメント |
直訳 | 人的資源管理 | 戦略的人的資源管理 | 人的資本管理 | 人材能力管理 | 人事労務管理 |
意味 | 【人】を資源として管理する事 | 【人】を競争優位の資源として管理する事 | 【人の能力】を資源として管理する事 | 【能力】を最大化させる取り組みの事 | 【人】をコストとして管理する事 |
対象 | 人 | 人 | 人の能力 | 人の能力 | 人 |
目的 | 業績の最大化 | 業績の最大化 | 業績の最大化 | 能力の最大化 | コストの管理 |
どれもHRMと似たように見える用語ではあるものの、このように並べると対象や目的が異なることが分かります。
ここでは世界的にも有名なHRMのフレームワークを5つ紹介します。
・ミシガン・モデル(Michigan model / 1980年)
・ハーバード・モデル(Harvard model / 1980年)
・ワーウィック・モデル(Warwick model / 1990年)
・ゲスト・モデル(Guest model / 1997年)
・ウルリッチ・モデル(Ulrich model / 1995年)
日本では1990年代以降から注目されだした、このHRMという考え方ですが、海外では1980年代からフレームワークとして、さまざまな企業で実際に使われていたことを知らなかった方も多いのではないでしょうか。
ミシガン・モデル(1980年)はHRMの基本的な概念となるものです。
人事の基本項目である「採用・選抜、人材評価、報酬、人材開発」の4つを単純明快に表した相関図となります。
業績最大化の為のサイクルであり、人材を有効活用して経営戦略へとつなげていくものです。
ミシガン・モデルが着目している要素は以下の4つです。
ステークホルダー=関係者の利害
ハーバード・モデル(1980年)はミシガン・モデルよりも幅広く複雑です。
HRMの領域に加え、長期的な成果や状況要因を加味した関係者の利害まで幅広く視野に入れます。
ハーバード・モデルが着目している要素は以下の5つです。
ワーウィックモデル(1990年)はハーバード・モデルをベースに開発されました。
ワーウィックフレームワークはハーバード・モデルとは異なる5つの要素に焦点を当てています。
このHRMモデルの特徴はビジネス戦略と内部及び外部コンテンツを認識している点です。
「外部と内部の適切なバランス」が企業を成長させることに焦点を当てたフレームワークです。
ワーウィック・モデルが着目している要素は以下の5つです。
ウルリッヒ・モデルは、1995年に「現代の人事の父」であるDavid Ulrichによって考案されました。
1997年に出版された彼の著書「Human Resource Champions」に考案の経緯などが詳しく書かれています。
また、ウルリッヒ・モデルはビジネスパートナー・モデルとも呼ばれています。
事業の成功を人材面からサポートする人をビジネスパートナーHR(BPHR)と呼びます。
このモデルの特徴は、プロセスや機能に焦点を合わせるのではなく、組織・従業員、事業計画、役割を中心にしています。
ただし、ウルリッヒ・モデルはHR機能に依存しないことを強調しています。
ウルリッヒ・モデルが着目している要素は以下の4つです。
HRの役割 | ビジネスパートナーHR(BPHR)として押さえるポイント |
---|---|
戦略的パートナー | 経営戦略・事業戦略に合致した組織を設計する。 |
変革を行う人 | 従業員のパフォーマンスを最大化してより高い目標を見出す。 |
従業員チャンピオン | 事業部長と社員の仲介を行い、整合性を保つ。 |
管理エキスパート | 組織を取りまとめ、リスク排除と効率化を行う。 |
ゲスト・モデル(1997年)は後続モデルであることからも、他のモデルよりも評価が高いです。
このモデルは、人事マネージャーが最初に特定の戦略を持っていると主張しています。
人事戦略から特定の慣行を要求し、実行して結果につながります。
特定の慣行を行った結果には、行動、パフォーマンス、財務が含まれます。
つまり、財務結果は従業員のパフォーマンスに依存し、従業員のパフォーマンスは行動の結果に依存します。
ゲスト・モデルでは人事戦略から始まり、一連の整合性が取れていることが重要だと強調しています。
ゲスト・モデルが着目している要素は以下の6つです。
世界中で日々考察と改良が行われているHRM。
人材の定着や業務効率化を考慮した業績最大化は、企業にとっての課題です。
基盤を形成して改良を重ねていくことで、より良い組織になっていくでしょう。
これからは、同業他社もHRMについての考察を重ね、よりよい組織づくりを目指してきます。
従業員を労働力としか考えないような企業では、存続が危うくなるかもしれません。働いてお金を稼いでいるだけの企業よりも、HRMを重要視した企業のほうが社員からの信頼も得られます。また、他の企業からも見本となって信頼されることでしょう。
終身雇用や年功序列の雇用形態が変化してきたことからも、HRMはより重要視されてきています。今後、HRMから目を背けるような企業は、人材が定着せずに最大パフォーマンスを発揮しづらくなるでしょう。
この記事を書いた人