オンボーディング Onboarding 「新卒社員」や「中途社員」が辞めない仕組みづくり
『オンボーディング』とは、新入社員をスムーズに社内に溶け込ませ、パフォーマンスを上げさせるための一連の仕組みづくりを言います。この冊子ではHR先進国であるアメリカ企業の事例も踏まえ、人材育成のための最新のメソッドを解説。
オンボーディングの具体的な取り組み方をご紹介しています。
エンゲージメント
公開日:2022.10.19
目次
今、社会的に「従業員エンゲージメント」というキーワードに注目が集まっています。エンゲージメントを向上させることは個人と会社、双方の成長につながり、生産性や組織力にも大きな影響を与えます。詳しい内容や考え方をご説明していきましょう。
エンゲージメントについて動画でも解説しています。
会社と従業員間でのエンゲージメントとは、従業員の会社への信頼、思い入れを表す言葉です。もともとは、英語のエンゲージメント(engagement)から派生し、「従事していること」「結婚の約束」「言質、誓約」「(歯車などが)かみ合っている状態」を示しますが、従業員エンゲージメントは、従業員が会社のことをどれだけ信頼し、貢献したいと考えているかなどの、自社に対する思い入れの強さを表す考え方のことです。
エンゲージメントが高い従業員は、給与や福利厚生といったメリットだけでなく、会社への貢献、同僚からの感謝などの面からもやりがいを感じるため、会社への定着率が高くなる傾向にあります。逆に従業員エンゲージメントの低い従業員は、条件のよい会社が他にあれば、転職してしまうでしょう。会社と従業員が相思相愛の状態で働ける環境、「エンゲージメント」が高い状態を持続させることは、会社が成長する秘訣とも言えます。
従業員エンゲージメントは、以下の3要素によって構成されています。
1.働きやすさ
働きやすい環境は従業員に心理的安定性をもたらします。疎外感や孤独感を感じることなく、上司からも成長を期待されていると感じられれば、モチベーションは上がるでしょう。働きやすさには、自由に意見交換が出来る風土、能力や個性を発揮しやすい組織、個人に適した業務量などが大きく関係します。
2.やりがい
成果が認められると、やりがいにつながります。成果とは集客や売り上げなどの数値だけでなく、周囲からの評価も含んでおり、これらの成功体験によって自信が持て、その結果自己肯定感が高まり、会社での存在価値を見出すことにつながるのです。
3.ビジョン
要素として最も本質的なものが、企業と個人のビジョンの一致です。従業員個人が掲げる人生設計と、企業のビジョンが重なった時、従業員は情熱を持って働くことができます。そのためには、日常的にビジョンを従業員と共有して意見交換することが必要です。
では、なぜ従業員のエンゲージメントが高い必要があるのでしょう。それには企業にとって欠かせないメリットがあるからです。
企業の成長には優秀な人材が欠かせません。会社が掲げる理念やビジョンに賛同し、一緒に成長していこうと決意しているエンゲージメントの高い従業員は、多少の困難に怯むことなく、「これを乗り越えれば自分も会社もステップアップできる」と考えて、積極的な姿勢を見せてくれるはずです。
人材流出が激しい現代では、優秀な人材ほど転職を考えたり、ヘッドハンティングされたりする可能性が高いもの。しかしエンゲージメントを高めておけば、会社と一緒に成長する未来を思い描き、長く活躍してくれる人材に育ちます。エンゲージメントの向上は、離職率の低下につながるのです。さらに、今はどんな業種もグローバル化が求められています。世界競争に負けない企業として成長していくには、グローバルに活躍できることも大切。エンゲージメント向上によって優秀な人材が集まれば、グローバル化にも大変有効です。
エンゲージメントが高まると、企業の業績も向上します。なぜなら、従業員は会社の目標や課題を「自分の成長」とも捉えるため、自発的、積極的に解決しようと行動するからです。それが、製品やサービスなど業務のクオリティ向上につながり、顧客の満足度がアップします。こうした従業員の積極的な働きは、能率アップや生産性の向上をもたらしてくれます。無駄が省かれることになるためコストダウンにつながり、利益率の上昇も見込めるでしょう。こうしたよい連鎖が生まれると、従業員同士の信頼関係が育まれ、些細なことでも言い合えるようになり、大きなトラブルが起こる前に問題点を指摘し合えるようになります。
エンゲージメントと混同されやすい言葉に、従業員満足度があります。この二つは似ているようで、意味は大きく異なります。具体的な違いを見ていきましょう。
従業員満足度との相違点
従業員満足度とは、会社から与えられる給料や福利厚生などによって生じるもので、企業そのものや仕事内容、職場の雰囲気や人間関係などに、どの程度満足しているかを意味します。従業員満足度はあくまでも満足度ですので、自発的に企業に貢献したいと思っているかどうかを示す、従業員エンゲージメントとは異なります。
もちろん、エンゲージメントも従業員満足度も、どちらも高いに越したことはありません。しかし、従業員満足度が高いからといって、必ずしも仕事の生産性が高くなるとは言えません。なぜなら、福利厚生を充実させて従業員が満足したところで、主体的に仕事をするとは限らないからです。
エンゲージメントという考え方が広まる以前は、従業員満足度をアップさせることが企業の生み出す製品やサービスを向上させる根幹になると言われていました。心に余裕を持った状態で仕事に取り組むことで、質の高いサービスや製品が生まれ、結果として顧客満足度の上昇や業績アップにもつながると考えられていたのです。そのため、かつては多くの企業が、従業員の待遇向上や福利厚生の充実などを図り、従業員満足度のアップに取り組んでいました。ところが、思わぬ悪影響が生まれるケースが出始めました。居心地のよさがぬるま湯状態につながり、「与えられた仕事をこなしておけば生活には困らない」と考える、ぶら下がり社員が生まれるケースが見られるようになったのです。
一方、会社が目指す方向性と、従業員の個人的な目標のベクトルを一致させ、業績を向上させようとするのがエンゲージメントの基本的な考え方。エンゲージメントが高まると、従業員は積極的に成長しようとし、自発的に行動することから、自然と生産性もアップ。会社の業績に好影響が生まれるという循環が生まれます。だからこそ、エンゲージメントの向上は離職率の低下にもつながるのです。会社とベクトルが一致することで、従業員には「この会社と一緒に成長していきたい」という思いが生まれ、会社は従業員の成長を見込んだ長期的なビジョンを掲げやすくなります。
職場環境を整え、給与や待遇を高め、充実した福利厚生を用意するといった従業員満足度を上げる取り組みは、度を超えた瞬間から、会社から従業員への不釣り合いなもてなしになってしまいます。従業員側はもてなされるのを待つのみになるうえ、コミュニケーションは一方向に限られます。
それに対して、エンゲージメントを高めるためにはおのずと対話が必要になります。会社のビジョンと個人の目指す方向性をリンクさせ、上司と部下が話し合いによって適切な目標を設定し、評価やフィードバックを積み重ねることによって、自発性や積極性が培われていきます。その結果、会社のために尽くそうとする優秀な従業員が育っていきます。
従業員エンゲージメントを高めるためには、いくつかのポイントがあります。
1.会社のビジョンや社会的価値の浸透
会社のビジョンや社会的価値を浸透させることはとても重要です。自分の担当した仕事や所属している部署、そして会社全体が、社会にどのように貢献しているかを知ることは、仕事へのやりがいに直結します。また、将来のビジョンを語りながら、そのためにはどんな人材が必要なのかを説くことも、会社と従業員の方向性を合致させていくうえでは欠かせないでしょう。
2.適切な目標設定と人事評価
一人ひとりに適切な目標を設定し、適正かつ公平な評価基準で目標達成度をチェックすることは、従業員のやる気を引き出します。目標達成に向けた具体的な方策や、成長するために必要な研修、トレーニングの機会を用意するなど、積極的なフォローアップも心がけてください。さらに、評価者と従業員が対話し、定期的にフィードバックを行うことも大事です。目標達成に向かう過程のなかで、よかった点は褒め、悪かったところは前向きな言葉で改善を促すというコミュニケーションによって、従業員は方向性を見失わずに成長していけるでしょう。会社側が、公平で透明度の高い評価システムを用意し、評価する側の教育や、成長機会となる研修やトレーニングの場を用意する必要もあるでしょう。
3.社内の人間関係の活性化
部署間の横のつながりを活用したプロジェクトの実施や、ランチミーティング、社外イベントへの一斉参加などを通じて、社内の人間関係が活性化すると、従業員同士に仲間意識が芽生え「仲間のために頑張ろう」という意欲が湧きます。その輪が広がることで、「チームのために」「会社のために」と、従業員エンゲージメントが高い状態へと発展していくのです。
エンゲージメントの現状を調べるには、エンゲージメントサーベイというアンケートを実施するのが一般的です。従業員に対して、アンケートする手法で、組織への愛着、職務満足、社内コミュニケーションの現状、将来への期待などが、現在どんなレベルにあるのかを調査、分析します。何が業務を促進し、何が業務を阻害しているのかがわかるような設問にして、従業員の活動に関する一連の影響要因を洗い出し、現状のレベルを可視化。エンゲージメントを高めるための計画を立てていきます。
加えて、サーベイを実施する頻度と、施策のタイミングも大事です。近年は、短いスパンで継続的な調査を行うパルスサーベイが注目されています。パルスサーベイは、シンプルで答えやすい質問と、質問数の少なさが特徴で、継続して実施することによって回答者の変化を観測できます。分析する側の負担が少ないのもメリットです。そして、調査結果から出た問題点をいち早く分析して施策を講じることが、従業員個人の会社に対する信頼にもつながります。また、現状を徹底的に把握する必要がある場合には、大量の質問を用意して大規模なサーベイを行うこともあるでしょう。その場合、半年から1年に1回のペースで行う会社が多いようです。大規模なサーベイを行う際は、質問作成、集計、分析に時間がかかることや、答える側も時間と根気が必要になることを考慮しておきましょう。
サーベイ結果を分析する際、担当者には「何を変えればエンゲージメントが高まるか」「会社を成長させるためには何から変えていくべきか」という視点が求められます。そうした分析に至る質問事項を用意できるかどうかがサーベイの成否を分けるとも言えるでしょう。
働き方の多様化や新型コロナウイルスの流行によって、テレワークを導入する企業も多くなりました。それによって、これまでのような社内コミュニケーションが難しくなり、生産性の低下を感じている企業も少なくないようです。その傾向は、メンバー同士の連携が必要な業務が中心の会社ほど顕著です。顔を合わせてのコミュニケーションと違い、テレワークでは伝える側の文章力や受け取る側の読解力によっては、真意が正確に伝わらないケースもあります。何気ない質問などは迷惑になるかもしれないと遠慮してしまうことも多いようです。こうしてコミュニケーションの機会が少しずつ少なくなると、リアルタイムな問題解決ができず、大きなトラブルにつながってしまう可能性もあるでしょう。
テレワークにおいては、上司と部下の関係にも変化が生じます。上司は「部下を管理できているだろうか」と、部下は「上司にちゃんと評価してもらえるだろうか」と、お互いに不安に駆られてしまうのです。不安や不信はエンゲージメントの低下につながります。「仲間と一緒に働いている」という一体感が薄れ、孤独感が高まる点も、従業員エンゲージメントを低下させる要因です。
テレワーク中に社内コミュニケーションを活性化させるには、コミュニケーションの機会とコミュニケーションスキルという2つが大切です。コミュニケーションの機会を維持するためには、オンラインツールの活用などが効果的。タイムリーな業務連絡にはチャットツールを、まとまった報告にはメールを、込み入った話題を扱う場合にはオンライン会議など、ツールを使い分けながらコミュニケーションの機会をつくっていきます。業務のための会話だけでなく、雑談や話のネタになるような情報やアイデアの共有を行えるチャンネルを用意することも良案です。雑談から生まれたアイデアが、大きなプロジェクトに発展することもあるため、社内SNSやチャットツールなどで、些細な会話ができるようにしておくといいでしょう。もちろん、コミュニケーションの機会を増やしても、否定や批判ばかりになってはいけません。従業員同士の足の引っ張り合いに発展するような事態にならないように気を付けましょう。
そして、テレワークでのコミュニケーションは、ポジティブな声をかけ合うことがとても重要です。連絡を取り合う際は必要最低限の情報のやりとりだけで終わらず、大げさにならない程度に前向きな言葉を伝えていきましょう。特にテレワークは「自分がやっていることを誰も見てくれない」という思いが募りがちになります。表情が見えないと、感謝や好意のニュアンスも伝わりにくくなるため「このやり方でいいのかな?」「やりがいが感じられないな」という不安に陥ってしまうリスクも。そんな状況だからこそ、相手の努力を称え、感謝の気持ちを伝えることが大きな意味を持つようになるのです。テレワークによって社内コミュニケーションがうまくいかなくなったときでも、やり方次第で充分に温かみのある交流を図っていくことはできます。業務をスムーズに進め、従業員エンゲージメントの低下を防ぐために、こうしたスキルを意識しておきましょう。
日本企業における従業員エンゲージメントは、世界的に見て低水準であることはすでにお伝えしました。では、従業員エンゲージエントが高い会社の特徴を参考に、自社で改善していくポイントを探っていきましょう。
従業員エンゲージメントを高める方法は一様ではありません。しかしながら、高い水準を保っている会社の共通点を見つめると、ヒントが浮かび上がってきます。エンゲージメントが高い企業の共通点は以下のとおりです。
このようなポイントを自社の現状と照らし合わせて、うまくいっている部分とそうでない部分を整理してみましょう。うまくいっているように見えても従業員エンゲージメントの向上を阻害する要素が潜んでいるケースは少なくありません。
例えば、謙虚さが美徳とされる日本ならではの感覚が、「悪目立ちしたくない」と従業員の貢献意欲を阻んでいるかもしれません。また、定時勤務が絶対的なルールとなっている会社では、効率よく仕事を終わらせても早く帰れるわけではないので、生産性が上がらないケースもあります。こうした状況では「もっとがんばろう」「挑戦してみよう!」という感覚は生まれません。
他にも雇用主・従業員という主従関係をベースに従業員満足度を重視している企業では、従業員エンゲージメントが上がりにくい傾向にあります。待遇や労働条件の改善で従業員満足度が上昇し、一時的にモチベーションが高まっても、仕事そのものへの熱意が上がるわけではないため、生産性向上や業績アップにはつながらないのです。
さらに、日本企業で一般的なメンバーシップ型雇用が、エンゲージメント向上を阻害する要因であるという考え方もあります。メンバーシップ型雇用はゼネラリスト育成には向いていますが、専門性を生かすような働き方ができず「自分の力を会社のために生かしたい」という感覚になりにくいのです。また、組織が複雑な会社も、従業員エンゲージメントの向上に苦労するかもしれません。「誰に何を相談すればいいのか分からない」「あちらに相談すると、こちらの顔が立たない」といった環境から、社内コミュニケーションに問題が生じるリスクがあるのです。エンゲージメントに悪影響を及ぼす要素は意外な局面に潜んでいます。自社だけの取り組みで、向上計画を立てるのが難しい時は、専門業者への委託や、HRテックの活用も視野に入れてみるとよいでしょう。
従業員エンゲージメントが上がることで業績がアップし、好結果を通じて従業員の貢献意欲がますます高まる。そんな好循環を生み出せる企業を目指し、エンゲージメントサーベイの実施や分析を行っていきましょう。その結果から自社に適切な施策を講じ、企業と従業員が相互に高めあえるような関係を丁寧に紡いでいきます。従業員エンゲージメントが高い会社の共通点や、基本的なセオリーを参考にしながら、自社にあった方法を模索していくとよいでしょう。
昨今では働き方や考え方が自由になり、個人でそれぞれの生き方を選択できるようになってきました。そして、働き方改革の推進や新型コロナウイルスの感染拡大など、時代は目まぐるしく変化し続けています。だからこそ、企業は従業員の個性や柔軟な働き方を認め、従業員が自発的に働ける環境や取り組みに力を入れていき、従業員の働くモチベーションをより維持できるよう、従業員エンゲージメントを上昇させる必要があります。
これまでエンゲージメントの向上に取り組んでいなかった会社や、取り組んでいたものの成果が出なかった会社でも、まずは現状把握を行い、改善策の検討、仕組みづくりなどを行うことで、エンゲージメントは着実に高められます。エンゲージメントの向上によってもたらされる数多くのメリットを、会社と従業員の成長につなげていってください。
この記事を書いた人