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「2023年版 日本における『働きがいのある会社』ランキング ベスト100」注目が集まる「人的資本開示」への評価や基調講演の様子をレポート
公開日:2023.2.24
2023年2月9日(木)、株式会社働きがいのある会社研究所(Great Place to Work® Institute Japan、以下GPTWジャパン)から「2023年版 日本における『働きがいのある会社』ランキングベスト100」が発表されました。
同社が行うランキング調査の発表は今年で17回目となります。今回、HR BLOG編集部も発表会に参加。本記事では当日の様子をレポートします。
目次
最新版日本における「働きがいのある会社」 ランキングについて
GPTWジャパンでは、従業員向けアンケートと会社向けアンケートの2種類の調査を通して、同社が定める一定水準を満たした会社を「働きがいのある会社」として月に1回認定しています。
さらに、その認定企業のなかから、特に「働きがいが高い」とされる上位100社の企業をランキング形式で年に1回発表しています。
2022年は「人的資本開示」などのキーワードが注目され、従業員の「働きがい」は企業成長にとってますます欠かせない要素となっていました。今回の調査では、去年から約100社増の634社が参加。ランキングを通して人的資本の開示を実現している企業も多いようです。実際にランクインした企業(企業規模ごとに上位10位まで)は以下の通りです。
大規模部門 (1,000人以上)
- 1位:シスコシステムズ(東京都・情報通信業)
- 2位:セールスフォース・ジャパン(東京都・情報通信業)
- 3位:DHLジャパン(東京都・運輸業、郵便業)
- 4位:アメリカン・エキスプレス(東京都・金融業、保険業)
- 5位:レバレジーズグループ(東京都・サービス業(他に分類されないもの))
- 6位:パーソルキャリア(東京都・サービス業(他に分類されないもの))
- 7位:モルガン・スタンレー(東京都・金融業,保険業)
- 8位:ディスコ(東京都・製造業)
- 9位:マイクロンメモリジャパン / マイクロンジャパン(広島県・製造業)
- 10位:マネーフォワードグループ(東京都・学術研究、専門・技術サービス業)
中規模部門 (100-999人)
- 1位:コンカー(東京都・情報通信業)
- 2位:アチーブメント (東京都・学術研究,専門・技術サービス業)
- 3位:CKサンエツ(富山県・製造業)
- 4位:ヤッホーブルーイング(長野県・製造業)
- 5位:日本ケイデンス・デザイン・システムズ(神奈川県・情報通信業)
- 6位:アドビ(東京都・情報通信業)
- 7位:FCE Holdings (東京都・サービス業(他に分類されないもの))
- 8位:ナイル(東京都・情報通信業)
- 9位:グロービズ(東京都・教育、学習支援業)
- 10位:ファイブグループ(東京都・宿泊業、飲食サービス業)
小規模部門 (25-99人)
- 1位:あつまる(東京都・情報通信業)
- 2位:現場サポート(鹿児島県・情報通信業)
- 3位: バーテック(大阪府・製造業)
- 4位: Aphros Queen(東京都・サービス業(他に分類されないもの))
- 5位: ENERGIZE(東京都・学術研究,専門・技術サービス業)
- 6位:湘南ゼミナールオーシャン(神奈川県・教育、学習支援業)
- 7位: クラウドストライク(東京都・情報通信業)
- 8位:タニウム(東京都・情報通信業)
- 9位: ロバートハーフジャパン(東京都・サービス業(他に分類されないもの))
- 10位: NEWONE(東京都・サービス業(他に分類されないもの))
今回の調査から見えてきた最新の「働きがい」における状況
ランキング発表後は、GPTWジャパン代表の荒川氏より今年度調査の全体傾向解説がありました。
今回の調査における参加企業の割合は、情報通信業が30%、サービス業(他に分類されないもの)が13%、製造業が11%、卸売業、小売業が11%、学術研究、専門・技術サービス業が9%。また、このうち外資系企業が40〜50%を占めていると言います。
全体概要
全体設問を通して、点数の低下が最も目立ったのは小規模企業(25-99人)郡。環境の変化に対応しようとする企業の動きが、小規模企業の従業員における「働きがい」に対してはマイナスに影響すると考察されます。
また、「従業員の性的指向や性別に関係なく正当に扱われているかどうか」という観点における「公正」に関する設問で点数の向上が見られる企業が多く、ダイバーシティ&インクルージョンの推進が進んでいると捉えられます。
反対に、「特別なことがあれば祝い合っている」「新しいことや改善への挑戦が称賛されている」といった肯定的なコミュニケーションに関する設問では低下もしくは改善幅の低さが全体を通して指摘されており、従業員の「やりがい」へのマイナスの影響が懸念されます。
前回調査との比較
前回調査から総合スコアが維持または上昇した企業とそうでない企業を比較した際、「新しいことや改善への挑戦が称賛されているか」という観点の設問において、前者の企業では大きく改善が見受けられました。従業員から経営者層への信頼と、組織全体でチャレンジを称賛する文化は、やはり働きがいを継続的に高めるポイントになりそうです。
「コロナ禍」と「働きがい」
コロナ禍(2022年1月~3月頃)におけるリモートワーク実施状況については、出社と組み合わせたハイブリッド型を選択する企業が全体の6割となっていました。そのなかで、働きがいが最も低い結果となったのは「出社が5割」のハイブリッド層。特に「公正」に関するスコアが低い傾向にあり、従業員の仲間意識の醸成や評価の基準などを見直す必要があるとの指摘がありました。
また今回の認定企業と不認定企業を比較すると、認定企業はどちらかと言えばリモートワーク中心の働き方が多く、不認定企業ではオフィス出社の割合が高いこともわかりました。
以上が全体傾向の詳細ですが、業種によって働き方・働きがいの捉え方が変容する部分もありますので、今後も自社にとって最良の選択を従業員とともに考えていく必要がありそうです。
マネーフォワード・People Forward本部 本部長 石原千亜希氏による事例企業講演
発表会のなかでは、大規模企業部門でランキングに選出されたマネーフォワードグループの石原氏による事例講演も行われました。
3カ月に一度、Cultureを最も体現しているCulture Heroを表彰するなど、カルチャーやバリューに関する取り組みが評価されたマネーフォワードグループ。創業から10年でグループ全体社員数が2,000名近くまで増え、まさに急速な成長の最中にあります。
さて、今でこそ従業員にカルチャーが浸透しているマネーフォワードグループですが、過去に策定していた「行動指針」はうまく社内に浸透しなかったと言います。
それは社員100名ほどの時代に運用していた全10項目の指針で、強いワーディングで構成されていました。しかし、それらのワーディングは社風に合ったものではなく、実際に社内で語られることも少なかったそうです。カルチャーマッチした人材を採用しようにも従業員の中で落とし込みが行われず、マインドではなくスキルに傾倒してしまったといいます。
そこで、2016年より行動指針を「MVVC」(ミッション、ビジョン、バリュー、カルチャー)として刷新。
シンプルでキャッチーな言葉に刷新することで、誰にとっても腹落ちしやすく、社風にもマッチした内容となりました。
また、同社ではその後のカルチャー浸透のための取り組みにも注力していました。今回のランキングでも大きく評価された点です。
先述したCulture Heroの表彰のほか、表彰において選出されたメンバーがナレッジを全社員にシェアする機会も創設。それによって評価・賞賛の基準が従業員に対して可視化され、公正な評価につながっているといいます。
そのほか、刷新したバリューとカルチャーについて、あえて誰にでもわかりやすい一般的なワードにしたことで解釈がぶれることも想定し、マネーフォワードグループにおける言葉の意味をかみ砕くワークショップも開催しています。
さらに、注目が集まる「人的資本開示」においては、同社の人事施策の背景・ストーリーを社内外に広める動きも実施。
特に「Talent Forward」の概念を重要視するマネーフォワードグループでは、取り組みの一例として昨年公開された「産休育休ガイドブック」がピックアップされました。これは外部にも一般公開されているガイドブックであり、マネーフォワードグループ内での制度の詳細と、実際に産休・育休を取った従業員のインタビューが掲載されています。
また、「なぜこのガイドブックを作ったか」「このガイドブックを通して従業員にどうなってもらいたいか」など、人事側(作り手側)の意見もしっかり掲載することで、人的資本開示の目的からもぶれない内容となっていました。
GPTWジャパン荒川代表×マネーフォワードグループ石原氏によるトークセッションも
同日の発表会の後半では、GPTWジャパン荒川氏とマネーフォワードグループ石原氏による対談と質疑応答も行われました。
特に注目が集まったのは、マネーフォワードグループにおける人的資本開示の取り組みの詳細。同社のように急速に規模拡大している企業でよくある悩みが、「従業員の働きがいが落ちるタイミング」にぶつかるとき。これを乗り越えるにあたっては、いかに管理職にカルチャーを体現してもらうかが重要になってきます。荒川氏から石原氏へ「実際にマネーフォワードグループではどのように管理職を巻き込んでいったのですか?」と質問が飛ぶと、まず石原氏はマネーフォワードグループの管理職の割合から話し始めました。
石原氏:「マネーフォワードグループでは、管理職の割合は従業員全体の10%程度です。前提としてマネーフォワードでは、全員がMVVCに共感して、そこに思いがある人を採用するようにしています。なのでカルチャーの体現にネガティブな人というのは基本的にはいないんですが、とはいえ何もせずに浸透するかと言われればそういうわけではないんですよね。そこですごく重要だなと思ったのが、『会社のトップがどれだけそこに注力しているか』ということだと思っております。
弊社では代表の辻の言葉を、『失敗を語ろう』という書籍にして出版しています。これは会社が創業期からどんな失敗を重ねて今に至っているかということが書かれているのですが、これだけ会社が大きくなってくると会社のストーリーを語り継げる人がだんだん減ってくるんですよね。だから、この会社は何を大事にしているのかということを、経営者の言葉でしっかり語るということが大事だと思います。
これによって、弊社の経営・管理者層と従業員の信頼関係は、他の働きがい認定企業様と比較しても高い水準を保てていると感じています。
そういう意味で、カルチャーの浸透と働きがいの醸成には管理職を巻き込んでいくことも重要ですが、やはりトップマネジメントがちゃんと言葉で発信して、朝礼などで繰り返し伝えていくということが大事ですね。最初は歯がゆそうな社員もいますが、だんだん慣れてきてみんな自分の言葉で語れるようになります。そうなるとさらに下の層へそのカルチャーを伝承できるようになっていきます」
急速拡大を続けるマネーフォワードグループ。同社における「働きがい」向上への取り組みは多くの企業の共通の悩みを解決するヒントとなりました。
伊藤邦雄氏の基調講演
ランキング受賞企業の表彰式の後には、一橋大学CFO教育研究センター長/一橋大学名誉教授の伊藤邦雄氏による基調講演が行われました。
人事担当者であれば誰もが知る「人材版伊藤レポート」。「人的資本」というキーワードが業界に広まったのも、このレポートがあってこそと言えるでしょう。伊藤氏の講演内でも、人的資本の開示の重要性が改めて語られました。
特に日本企業が伝統的に続けているメンバーシップ型雇用においては、「雇用し続けてくれる」という悪性安心感を抱く従業員も少なくありません。その悪性安心感が充満することで従業員エンゲージメントは低下していきます。そこで、個人と会社がお互いに向上心を持つための「選び・選ばれる関係性づくり」が重要です。そのためには企業のパーパスと個人のパーパスを近づけていくための対話が重要であり、人的資本の開示は必須となっていきます。
また、「なぜ人的資本が重要か」という観点においては、人材は管理の対象となる人的「資源」ではなく「資本」であることを伊藤氏は強調します。人材は適切な環境を提供すれば価値が伸びる「資本」であり、投資すれば無限に価値を伸ばせるのです。これまでの日本企業では人材を「資源」とみなし、「管理」を行っていましたが、その見方を抜本的に変えていく必要があると語りました。
HR BLOG編集部より
今回の発表会を通し、業界全体で今後も人的資本開示への取り組みは進んでいくと感じられました。とはいえ、開示の義務化が進むことで目的がすり替わり、取り組みが形骸化する恐れもあります。
今回のGPTWジャパンの調査など、公正かつ専門的な目線での評価を企業にとってプラスに活かせるように考えていく必要があるでしょう。
この記事を書いた人