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ジョブ型雇用とは?メンバーシップ型との違い、メリット・デメリットを解説
公開日:2022.6.3
働き方改革が進み、多くの人の中でライフワークバランスの考え方が変わりつつあります。
さらに近年は新型コロナウイルスの影響により、これまで以上に自由な働き方が注目されるようになりました。
そこで企業が取り組まなければならないのが専門性の高いスキルや知識を持つ人材の確保です。
人材確保に役立つと注目を集めているジョブ型雇用とは、これまでの雇用方法とどう違うのか、どのように取り入れるべきなのかについて見てみましょう。
目次
ジョブ型雇用とは
ジョブ型雇用は欧米では主流の雇用方法です。
業務内容、勤務地、勤務時間などを明確に定め、求人の際に提示することで、企業が求めるスキルを持つ人材を効率的に採用できるといった雇用方法です。
入社してから研修を受けて各部署に配属されたり転勤を言い渡されたりといったことがなく、入社後別の部署に異動となることも基本的にはありません。
日本ではこのようなジョブ型雇用を採用している企業は少ないですが、欧米では昔から多くの企業が取り入れています。
ジョブ型雇用が注目されるようになった背景
日本ではあまり馴染みのなかったジョブ型雇用ですが、近年日本国内でもこの雇用方法が注目されつつあります。
実際にジョブ型雇用を取り入れた企業もあります。
なぜ日本でジョブ型雇用が注目されるようになったのか、その背景を見てみましょう。
終身雇用の魅力の低下
従来、日本では終身雇用が一般的でした。
一度入社した企業に長く勤め続けることで、能力の差に左右されず年功序列で役職がついたり収入が上がったりといった魅力がありました。
ですがこのような雇用方法では能力が高い人材の不満が溜まりやすく、転職が珍しいことではなくなった昨今において適正な評価を得られない企業からは優秀な人材が抜けていってしまいます。
そして優秀な人材が抜けた穴を埋めるためには、専門性の高い知識を持つ人材を即戦力として採用できるジョブ型雇用が効率的です。
ワイフワークバランスの考え方の変化
産業革命以降、日本では会社に尽くすような働き方が美徳とされてきました。
ですが現代においてこのような考え方は古いものとなっています。
現代ではかつてのように企業に貢献するのではなく、自分がおこなう業務に専念し、同時に自身のスキルを磨いていくことの方が重視されています。
さらにライフワークバランスの考え方にも大きな変化が訪れています。プライベートを犠牲にするような働き方ではなく、自分らしさや人生の充実に重きを置いた働き方が求められ、ジョブ型雇用の方がメリットが多いと感じる人材もいます。
多様性のある人材確保が必要
日本では少子高齢化が深刻な問題になっています。
従来の人材を飼い殺しにする雇用方法を続けていると、高い専門スキルを持つ人材の確保はどんどん難しくなっていきます。
少子高齢化が進む中人材を確保し続けるためには、多様性のある人材の確保方法を取り入れる必要があります。
育児や介護をしながらでも働きたい人材も受け入れる、外国籍の人材も受け入れるなど、これまでの固定概念に囚われない雇用ができるのもジョブ型雇用の大きな魅力の一つです。
背景はどうであれ、優秀な人材として会社に貢献してくれるのであれば多様性を受け入れて成果型のジョブ型雇用も十分に選択肢に含まれるでしょう。
ジョブ型雇用、日本と世界での導入率
ジョブ型雇用は欧米では主流の雇用方法ですが、日本ではまだその導入率は低いです。
日本国内の企業でジョブ型雇用を取り入れているのは全体の18%程です。従業員の数が多くなればなるほどジョブ型雇用の導入率が高くなるという結果も出ています。
39.6%はジョブ型雇用を取り入れたいと回答しています。
数年以内にジョブ型雇用の導入率は50%を超えるとも予想されています。
新型コロナウイルスの影響により人材確保が難しくなったこと、リモートワークのシステムが整ったことなどが理由として挙げられます。
一方でジョブ型雇用という言葉を知っているのは全体の半数以上という結果もあり、認知度は高まっているものの導入には至っていないというのが現状です。
ジョブ型雇用のメリット
ジョブ型雇用を導入するメリットを4つ紹介します。
日本でもジョブ型雇用は広まりつつありますが、取り入れるのに向いている企業と向いていない企業があります。
まずはメリットを確認して、企業が求める人材を確保できるかを考えてみてください。
即戦力を採用できる
ジョブ型雇用は業務内容や勤務地、勤務時間などを明確に提示して人材を採用する方法です。
そのため、企業が求めるスキルを持つ人材を集めやすいというメリットがあります。
従来のように一から育成する必要がなく、採用後は即戦力として活躍してもらえます。
また、ジョブ型雇用は従来の日本の企業では一般的だった年功序列システムではなく、実績やスキルに応じた評価システムです。
そのため人材のモチベーションも上げやすく、より業績のアップにつなげやすくなります。
人材のスキルを育成できる
ジョブ型雇用ではその人材に任せる仕事の範囲が限られています。
あれもこれもとさまざまな業務を経験させるのではなく一つの業務に絞って業務に集中できるので、人材を無駄にすることがないだけでなく人材一人ひとりのスキルを育成していくことが可能です。
スキルを磨けば磨くほど社内でも高く評価され、収入や待遇も良いものになっていきます。そのため人材も積極的に業務に取り組んでくれるようになります。
業務を効率化できる
人材を募集する際に業務を限定することで、無駄な業務にかける時間がなくなるだけでなく無駄な業務そのものを洗い出し、なくしていくことが可能です。
新人の育成にかかる手間やコストなども大幅に省けます。
専門性の高い人材を集めることでこれまでになかった研究、開発を進めることもでき、よりよい商品やサービスの提供ができるようになります。
少子高齢化が進む日本において人材を確保する方法は重要な問題ですが、ジョブ型雇用を取り入れることで競争力を高めて人材を切磋琢磨させることも可能です。
リモートワークに適している
日本はリモートワークの導入も遅れていましたが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響によりリモートワークを取り入れる企業も多くなりました。
そんなリモートワークにもジョブ型雇用は適しています。
ジョブ型雇用はスキル重視、評価重視の採用方法です。そのため人材の業務に取り組む過程を監視する必要がなく、成果を見て公平に評価ができます。
成果だけを送ればいいので出社する必要がないという点もリモートワーク向きです。
さらに、完全リモートワークOKにすれば求めるスキルを持っているのに遠方に住んでいるために採用できないという問題も解消できます。
ジョブ型雇用のデメリット
ジョブ型雇用にはさまざまなメリットがありますが、一方でデメリットもあります。
ジョブ型雇用を取り入れる前にはこのデメリットをきちんと確認しましょう。
企業や求める人材像によっては、ジョブ型雇用よりも従来のメンバーシップ型雇用の方が適している場合もあります。
転勤や異動が難しい
ジョブ型雇用は事前に勤務地を限定するケースが多いです。
このような場合、業務の都合上転勤が多くなる業務や企業には不向きです。
あらかじめ指定した業務以外のことを依頼することができないので、部署の異動も難しく、さまざまな業務を任せたいという企業にもジョブ型雇用は向きません。
業務に関連する雑務、期間限定で増える業務など、臨機応変な対応が必要な場合は注意が必要です。
人材の入れ替わりが激しくなる
ジョブ型雇用は業務内容によっては一定以上のスキル、資格がなければ応募資格がない場合もあります。
そのため、特殊な業務の場合は人材が集まりにくいです。
そして評価システムがあいまいだったり待遇が悪かったりすると、せっかく獲得した人材でもジョブ型雇用を採用している別の企業に取られてしまう可能性が高くなります。
抜けてしまった穴を補うためにさらにまた人材を募集することになり、求人にかかる手間やコスト、時間がかかるケースもあるので注意が必要です。
企業への愛着心が薄まる
ジョブ型雇用では人材のスキルを重視した採用をおこないますが、人材側も企業ではなく業務内容を重視して応募しています。
また、指定された業務をこなしよりよい成果を残すことが大切という働き方になるため、企業に貢献したい、チームで一丸となってプロジェクトを成功させたいという愛着心や信頼関係が育ちにくくなってしまいます。
終身雇用が一般的だったこれまでの働き方とは意識も変わっており、企業に貢献してくれる人材を集めたいという場合にはジョブ型雇用は不向きです。
ゼネラリストの育成が難しい
対応する業務を限定し専門的なスキルを持つ人材を採用するジョブ型雇用では、ゼネラリストを育成しにくくなってしまいます。
ゼネラリストとは広範囲の業務をカバーできる人材のことであり、企業にとってはさまざまな視点から物事を見られるゼネラリストは重要な存在です。
ジョブ型雇用で採用した優秀な人材を役員や幹部にしたい場合、ゼネラリストに育成するために別途研修を受けさせるなどの手間、コストがかかります。
導入企業の成功事例
日本国内でジョブ型雇用を導入している企業はまだ少ないですが、その中での成功事例を紹介します。
導入する目的や過程、結果を確認し、企業の採用方法を考える際に役立てましょう。
ジョブ型雇用を適用する人材をわける
家具の製造、販売をおこなう株式会社ニトリでは、ジョブ型雇用を導入する人材とメンバーシップ型雇用を導入する人材をわけています。
株式会社ニトリではまず数年おきに異動させさまざまな業務を経験させる社内教育をおこないます。その後専門的な知識、得意な分野を見つけ出し、その後はジョブ型雇用として専門分野に専念させます。
さまざまな業務を経験させることで、人材自身でも気づかなかった自分の得意分野を見つけ出し、スキルアップ、キャリアアップに役立てられます。
グローバル市場への転換を機に
日立製作所は2008年に企業を経営してきた歴史の中で一番の赤字を出しました。
その際に本格的に経営を再建し、市場を日本国内から海外へと移行していきました。
現在では経営状態は回復しており、売り上げのほとんどは海外からのものになっています。
総勢30万人程度いる社員の約半数は海外の人材であり、海外で事業を進めるためにはジョブ型雇用の導入が必須でした。
このように海外に事業を展開することを視野に入れている企業は、ジョブ型雇用の導入について前向きに検討する必要があります。
ジョブ型雇用を日本の風潮に合わせてアレンジ
株式会社資生堂では、海外の競合他社と比較して社内の人材の生産性の低さに悩まされていました。高い専門スキルを持つ人材も少なく、一つの分野に特化した人材がいないという状況でした。
そこでジョブ型雇用を導入するに至りますが、日本では成果重視のジョブ型雇用は受け入れられにくい傾向があります。
そんな日本の風潮に合わせ、20以上の領域とジョブディスクリプションを用意し、領域の中での異動を可能にしつつ各自の専門性を高めていくという方法にアレンジしました。その結果人材一人ひとりの専門スキルが高まり、評価についての不満も出にくい労働環境の構築に成功しています。
ジョブ型雇用の反対はメンバーシップ型雇用
日本で一般的なのがメンバーシップ型雇用という雇用方法です。
専門的なスキルを持つ人材を求めるジョブ型雇用とは違い、メンバーシップ型雇用は業務内容、勤務地、勤務時間などを限定しない方法です。
新卒採用のように一時期に一括で採用することが多く、社内で一から教育をおこなってそれぞれの部署や勤務地に配属していきます。
ジョブ型雇用が業務に人材をつける方法であれば、メンバーシップ型雇用は人材に業務をつける方法です。
メンバーシップ型雇用は年功序列、勤続年数や年齢を重視した評価が一般的であり、人材の流動性が低く雇用保障が強いといった魅力があります。
ジョブ型雇用の導入方法
ジョブ型雇用を導入するためにはまず、業務内容を明確にする必要があります。
どこからどこまでを担う人材を求めているのかを明確にした上でジョブ型雇用に取り組みましょう。
人事で求める人材像のイメージをきちんと共有した上で面接をおこなうことも大切です。
ジョブ型雇用では従来の年功序列の評価制度から成果重視の評価制度に変更する必要もあります。これまでにそのような評価制度が整っていない場合は早急にシステムを整えましょう。
ジョブ型雇用を導入したいけどどこから導入すればいいかわからないという場合は、責任の範囲が明確な管理職の募集から取り入れることをおすすめします。
ジョブ型雇用で変わる人事評価
ジョブ型雇用では評価制度の見直しが必須です。
業務内容や成果によって給与や待遇が変動するのがジョブ型雇用の特徴です。結果を出した人材には高い評価を与え、結果を出せなかった人材は評価を下げるという、従来の日本ではあまり馴染みのない評価方法に戸惑う可能性もあるので注意しましょう。
ジョブ型雇用で採用した人材はそのスキルに見合う報酬を受け取れるよう、公平に評価できるシステムを事前に作っておく必要があります。
この人事評価システムが公平で明確な基準であればあるほど、ジョブ型雇用で採用した人材もモチベーションを維持しやすくなります。
ジョブ型雇用制度を用いた求人募集の方法
ジョブ型雇用を用いて求人募集をおこなう際は、業務内容や勤務地、勤務時間などを明確に示したジョブディスクリプションが必要です。
ジョブディスクリプションについては下記で詳しく解説します。
さらに求人に応募する際にこれまでの経歴や実績がわかる資料を添付してもらう、面接だけでなく実際にテストをおこなうなど、スキルが企業が求めるものに合っているのかという点も必ず確認してください。
報酬や評価のシステムについても事前にきちんと説明することで、採用後のトラブルを防ぐことが可能です。
ジョブ型雇用にはジョブディスクリプションが必要
ジョブ型雇用をおこなう際に必要なのがジョブディスクリプションです。
ジョブディスクリプションは職務記述書とも呼ばれ、その名の通りジョブ型雇用で採用する際の業務の範囲、勤務時間、勤務地などを詳しく記載したものです。
企業はこれをもとに条件の合う人材を募集し、求職者はジョブディスクリプションの内容をもとに求人に応募します。
このジョブディスクリプションが明確でなければ後にトラブルになる可能性が高まるので注意してください。
ジョブディスクリプションとの関係
ジョブディスクリプションは業務内容をあらためて明確にするものです。
企業と人材とで、業務内容の認識に差があると後にトラブルになってしまいます。
与えられた業務のみに専念できると思ったら業務にまつわる雑務も依頼された、繁忙期に期間限定の業務が発生することを知らされていなかったというケースもあります。
ジョブディスクリプションを作成することで業務の無駄や非効率的な業務を発見することもでき、今後の業務効率化にも役立ちます。
ジョブディスクリプションのクラウド管理システム
これまでメンバーシップ型雇用を続けていた企業がいきなりジョブ型雇用に移行するのは大変です。
まずジョブディスクリプションの作成方法がわからずに時間がかかってしまうこともあります。また、ジョブ型雇用に適した評価システムの構築に戸惑うこともあります。
そんなときに役立つのが人材のマネジメントに役立つクラウドシステムです。
ジョブディスクリプションのテンプレートがあるためこれまでジョブ型雇用に触れてこなかった企業でもジョブディスクリプションを作成しやすく、ジョブ型雇用に踏み出しやすくなります。
手間を省いてジョブディスクリプションを作成したい場合はこのようなシステムも活用しましょう。
ジョブ型雇用を取り入れて優秀な人材を確保しよう
人材の新たな採用方法として今日本で注目を集めているのがジョブ型雇用です。
従来のメンバーシップ型雇用とは違い、効率的にスキルのある人材に的確な業務の振り分けができます。
大手企業の中にはジョブ型雇用を導入している事例もありますが、年功序列、終身雇用の風潮が強い日本ではまだまだ浸透するまでに時間が必要です。
ですが少子高齢化、働き方に対する価値観の変化が進む日本において、優秀な人材を確保できるジョブ型雇用は大いに役立ちます。
業務内容や企業の風土によってジョブ型雇用が向いているか向いていないかは違いますので、ジョブ型雇用のメリットとデメリットをよく確認した上でトラブルのないように慎重に導入していきましょう。
この記事を書いた人