「高校のカリキュラムをぶっ壊すためのプロジェクトを進めています」と言うピョートル氏の言葉には驚かされましたが、彼の意図したこと、そのプロジェクトは、日本の新卒社員全員の即戦力化という課題に対して、大きな成果を出すに違いないと対談者の広瀬氏は語りました。
プロノイア・グループ株式会社(以下、プロノイア)は、世界中の組織が、パフォーマンスを最大限に発揮し、イノベーションを起こせる文化づくりを支援。最近では、地方の教育委員会と連携し、高校生が社会に出てから使えるスキルや知識、経験のカリキュラムの開発に携わっています。
今回は、この「カリキュラムの開発プロジェクト」や「キャリア教育のためのOKR」について、プロノイア・グループ株式会社 代表取締役 ピョートル・フェリクス・グジバチ氏(以下、ピョートル氏)と、株式会社アックスコンサルティング 代表取締役 広瀬元義氏(以下、アックス/広瀬氏)の対談内容をお伝えします。
高校のカリキュラムぶっ壊しプロジェクト
最近、HR業界の色々なところでお見かけしますね。
特に
「OKR(Objective and Key Results)」に関するイベントや書籍などでは、引っ張りだこかなと思いますが、最近だと何に力を入れている感じですか?
そうですね。最近は、学生が社会に出たときに使えるスキルを身に着けるためのカリキュラム開発を進めています。
学生向けにですか?ピョートルさんってどちらかと言うと社会人向けのイメージが強かったのですが、具体的にはどんなカリキュラムですか?
高校生向けのカリキュラムなのですが、具体的には「キャリア」、「ビジネスモデル」を考えることができる「人材」を育てるためのものです。すでに地方の教育委員会とも話を進めているんですよ。
教育委員会と進めているんですか?かなり具体的に話が進んでそうですね。ちなみに既存ビジネスのどんなところをどう変えていきたいと考えていますか?
例えばですが、日本の企業の多くは、経営陣が決めたことが幹部社員へ伝わり、幹部社員から一般社員へ業務指示として下りていきます。その中で、細かい目標数字だったり、具体的な施策や、業務内容、タスクとして細分化されていきますよね?
それ自体は悪いことだと思いませんが、そのトップダウンの指揮系統が持つ課題として、指揮系統の末端に近い社員になればなるほど、与えられた業務をただ処理することだけにフォーカスしてしまい、経営陣への提案や提案力、そのための発想力が乏しくなってしまいます。
それでも、優秀な社員だと、与えられた業務のなかで色々な提案をすることはあると思いますよ。
そうですよね。ただ、若い人で既存のビジネスに変革をもたらすような提案や、自分の業務範囲から一歩引いた視点での提案、それこそ経営者目線での積極的な提案ができる人ってなかなかいないですよね。そう言った人材を育てることが目的です。
なるほど、それは素晴らしい取り組みですね!高校の授業で習うことの一部は、人によっては社会に出てから本当に必要かどうか疑問視する意見もたくさんありますからね…。
そうなんです。例えば、「歴史の年号をただ覚えることに何の意味があるの?」みたいな。だったら、社会で役立つスキルを身に着けたほうがいいですよね。ビジネスの損益やROIなどを考えるワークショップを授業のカリキュラムに入れてみるとか。
高校生の将来を考えると、そう言った授業があって、それを選択できることはとても魅力的ですね!
そうなんです!同時に、自分の力でキャリアアップができる人材、つまりキャリアップのために何をするべきか考え、選択し、実施していることができる人材に育てる、そんなカリキュラムを作っていきたいですね。
キャリア教育のためのOKR
高校生からの「キャリア教育」はとても大切なことだと思うのですが、ピョートルさんが考えるキャリア教育の目標はどのようなものですか?
キャリア教育の目標、そこに「OKR(Objective and Key Results)」があると思います。OKRを、「MBO」や「KGI・KPI」と並べて、単純ないち評価指標として考えるのではなく、OKRを導入して取り組む、その一連の流れが、キャリア教育になると考えています。
アックスでもOKRを導入しているのですが、本当にその通りだと思います。
ただ、ふたりで自己完結してしまうと、この対談の読者のみなさまが置いていかれてしまうので、もう少し噛み砕いて話をした方が良いかもしれませんね(^^;)。ピョートルさんは、OKRのどの様な部分が、キャリア教育につながると考えてますか?
まず、OKRとは、目標=「O(Objective)」と、その目標を達成するため成果指標の集まり=「KR(Key Results)」から構成されていますよね。何をしたいか、どういう成果を出して、どこに向かいたいか?などの大きな目標、抽象的な目標を“O”、そのために挑戦したい具体的な施策と評価軸が“KR”ですね。
例えば、先ほどの高校生のカリキュラムでいうと、「既存のビジネスを変える提案ができる人材にする」というのが“O”、「ビジネスの損益やROIなどを考えるワークショップを授業として週に〇〇時間行う」というのが“KR”という感じですよね。
そうですね。ただ、ここで「OKR」が他の評価手法と違うのは、OKRのOを決めるときのルールと深い関係があります。
OKRのOを決めるときのルール、つまり「ムーンショット」な目標ですね?
そこが、他の評価指標「
MBO」や「
KGI・
KPI」との大きな違いの一つだと考えます。他の評価指標は、“現実的に実現可能な目標”を元に、既存の業務の実施回数や、細かい目標数字を決めていきます。これはこれで堅実的で良いとは思っています。
そうなんですよね。アックスでも以前はKGI・KPIで評価をおこなっていました。これはこれで良かったのですが、どうしても、やっている業務の延長から抜け出せない社員も多かったように感じています。
それを打開するのが、「ムーンショットな目標」=「頑張っても達成が困難な目標を掲げる」ということですね。そして、その目標を達成するための手段や指標を、部門、グループ、チーム、個人で考え、創っていく。OKRは目標達成の管理をするためのものではありません。「目標設定能力を身につける」。これが、OKRの真の意味だと私は考えています。一人ひとりが自ら目標設定をできるようになれば、結果として組織全体に自発性や主体性が育まれることになりますよね。
ムーンショットな目標を達成するために悩み、考え抜き、創り上げるOKR。そして、その目標に向かって行動し、成果を追うこと。それが、「既存のビジネスを変える提案ができる人材」を育てるために一番必要なことだと、私は考えています。
「目標設定能力」…。あらためて考えてみると、高校生のころから「目標設定」の習慣化を、授業カリキュラムとして学べると言うことは、社会人になってからの大きなアドバンテージになりそうですね。
就職して企業に入れば、自身が達成するべき目標も会社の目標と密接に関わってきますよね。「会社のOKR」>「部門・チームのOKR」>「個人のOKR」というように1つの会社から全社員へとピラミッド型に広がっていきます。この構造で会社~個人の「OKR」までが矛盾なくしっかりと紐付けば、企業全体が目標達成への指針を共有できている状態になります。
一人ひとりの目標達成や成果が、そのまま会社の成果として反映されるようになるわけですよね。
そうです。そして、繰り返しになりますが、「OKR」であれば、さらなるアイデアがボトムアップ型で出てくるようになります。
若いうちから目標設定能力のスキルを身に着け、会社に貢献する。当たり前のようで難しい。でも大切なことですよね。ちなみにピョートルさんの会社では、このOKRで結果を出した方っていらっしゃいますか。
最近、ある外資系の会社から転職してきた女性がいます。前職では評価基準が「KPI」だったそうなのですが、上層部で決まったタスクが下りてくるだけだったそう。でもうちの会社に転職してきて、この方にOKRを教えたんです。
OKRに慣れるには少し時間が掛かったみたいですが、彼女から「今は、とても会社が楽しいです!」と言ってもらえました。続けて「チームの力がすごく強いと感じています。前職以上のチームです。みんながやりたいことを自分で決められる、そして実行できる。そういう環境がこの会社にはできている」と、モチベーションも高く、仲間と一緒に仕事を楽しんでくれています。
素晴らしいですね。彼女の場合は、会社がすでにOKRを導入していて、そこに慣れていく形なので、それほど時間がかからなかったのかなと思いますが、普通の会社で、MBOやKGI・KPIなどから、OKRに移行するのは、平均的にどのくらいの時間がかかるものなのでしょうか?
もちろん、その企業によって違うと思いますが、一般的に導入だけなら数ヵ月です。
ただ、OKRって、それ自体が、教育の側面も持っていますので、その部分も合わせて成果が出てきたと実感できるには、2年くらいかかると思います。常に改善していくこと自体がOKRの一部だと言えますよね。
そうですね。OKRは導入してからがスタートですからね。
OKRが会社から部門、部門から個人へと繋がっていく上で、最も重要なポイントは、上司が「O」を決め、部下と共に「KR」をしっかりとすり合わせすること。そして、共に目標を達成していくことです。ここで肝心なのが、「O」を達成するための「KR」を部下に考えさせる、そして上司は、それに対してアドバイスをするということです。そうすれば部下自身が目標達成のために自発的かつ主体的に動いてくれます。
自ら悩み考えて導き出した「KR」なら、それを達成するためにどうしたら良いのか、自分のこととして考えられるようになりますからね。
OKRは人を評価するのではなく、「育てる」をサポートする仕組み。そしてそれがそのまま会社の目標と結びついている。社員の「キャリア教育」が結果として、社会の成長につながる。それが、OKRの真髄だと考えます。今後、多くの企業がOKRを導入し、社員と会社、そしてその顧客も含めて、みんながwin-winの関係になれることを願っています。
今回のポイント
- OKRなら結果を出す過程で、「目標設定能力を身につける」ことができる
- 会社>部門>個人のOKRをしっかり繋げるためには、上司と部下のコミュニケーションが不可欠
- 学生のうちから社会で役立つスキルとして、「OKR」カリキュラムの導入が始まろうとしている
【対談者】
ピョートル・フェリクス・グジバチ氏
プロノイア・グループ株式会社 代表取締役 / モティファイ株式会社 取締役
ベルリッツ、モルガン・スタンレーを経て、2011年Google Japanに入社。アジアパシフィックにおけるピープルディベロップメントにてラーニング・ストラテジー、人材育成と組織開発、リーダーシップ開発などの分野で活躍。2015年に独立して未来創造企業のプロノイア・グループを設立。
広瀬 元義氏
株式会社アックスコンサルティング
代表取締役
士業コンサルティングを中心に事業を展開し、1万件以上の会計事務所をサポート。2019年3月、企業における「人事」の課題解決を後押しするクラウドシステムを発売開始。会計事務所および経営者向けセミナーの講演は年間50回以上。これまで出版した著書は45冊以上、累計発行部数は48万部を超える。
この記事を書いた人
HR BLOG編集部
このブログでは、「経営者と役員とともに社会を『HAPPY』にする」 をテーマに、HR領域の情報を発信しています。
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