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人材育成・開発・研修

ウェルビーイングとは?注目される理由と企業事例などをわかりやすく紹介

公開日:2023.1.10

    近年、従業員のワークライフバランスを整備し、働きやすい環境を作ることを目指して、ウェルビーイングの重要性を意識する企業が増加傾向にあります。

    本記事では、ウェルビーイングの概要や近年注目を浴びている理由などを解説します。また、企業における取り組み事例についてもご紹介します。

    ウェルビーイングとは

    ウェルビーイングとは、肉体的、精神的、社会的、すべてにおいて満たされている「幸福」な状態を意味しています。もともとは社会福祉や医療・看護などの分野から広まった言葉です。
    世界保健機関(WHO)の世界保健機関憲章前文には、次のような文章があります。[注1]


    “Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.”
    健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが 満たされた状態にあることをいいます。”


    “The enjoyment of the highest attainable standard of health is one of the fundamental rights of every human being without distinction of race, religion, political belief, economic or social condition.
    人種、宗教、政治信条や経済的・社会的条件によって差別されることなく、最高水準の健康に恵まれることは、あらゆる人々にとっての基本的人権のひとつです。”


    ウェルビーイングを意識して人事施策や経営戦略を策定することで、心身ともに健康な状態の従業員が高いパフォーマンスを発揮できるようになり、組織に良い影響をもたらす好循環が生まれることが期待されます。

    また、近年社会問題化している過労死やメンタルヘルスといった問題を解消し、従業員の満足度を高めるという意味で、注目されている概念でもあるのです。

    [注1]公益社団法人日本WHO協会/世界保健機関(WHO)憲章

    ウェルビーイングとよく混合される言葉

    ウェルビーイングと混同しやすい言葉に、ウェルフェア(welfare)ハピネス(Happiness)があります。これらは次のように意味が異なります。

    • ウェルビーイング(Well-being):「肉体的、精神的、社会的、すべてにおいて満たされている状態」「持続的な幸せ」
    • ウェルフェア(Welfare):「福祉」「福利厚生」
    • ハピネス(Happiness):「幸福」「感情的で一瞬の短い幸せ」

    ウェルフェアは、従業員の働きがい向上や従業員(または家族)の健康増進などが目的とされており、ウェルビーイングを達成するための手段となります。ハピネスは、短時間で感じるシンプルな幸せを意味します。人々がより高い幸福度を得られるようにするためには、持続的な幸福を指すウェルビーイングを高めることが重要です。

    ウェルビーイングが注目される理由とは?

    ではなぜ近年、ウェルビーイングが多くの企業で注目されているのでしょうか。
    その理由について5つを取り上げ、より具体的に紹介していきます。

    1. 人材不足

    現在、深刻化している少子高齢化によって、国内における労働力人口の減少が予測されています。今後は、さらなる人材不足に陥る見通しとなっています。

    また、かつてのように終身雇用が一般的でなくなったことから、企業にとっても自社に貢献してくれる人材を確保し、つなぎとめておくことが重要となってくるでしょう。

    企業は従業員の労働力を高め、人材不足を確保する意味合いでも、従業員やその家族に対してウェルビーイングを意識した取り組みが大切となります。

    2. 働き方改革による意識の変化

    働き方改革の推進により、働きやすい環境に向けた整備が急がれるようになりました。

    そのためには、ライフスタイルに応じた柔軟な働き方や長時間労働の是正、雇用形態に拠らない待遇差の改善など、職場環境を整備していくために必要な制度や仕組みを検討していかなければなりません。

    従業員が自分らしい働き方を実現するためにも、ウェルビーイングが重要な考え方となっていくことは明らかです。

    経済構造や景気の変化に対して、雇用政策の分析・提言を行っている雇用政策研究会(厚生労働省)でも、「就業面からのウェル・ビーイングの向上」は重視されています。以下は2019年7月に雇用政策研究会から発表された「雇用政策研究会報告書」からの引用です。
    「雇用政策研究会報告書」2019年7月・雇用政策研究会


    本報告書でいう「就業面からのウェル・ビーイングの向上」とは、働き方を労働者が主体的に選択できる環境整備の推進・雇用条件の改善等を通じて、労働者が自ら望む生き方に沿った豊かで健康的な職業人生を送れるようになることにより、自らの権利や自己実現が保障され、働きがいを持ち、身体的、精神的、社会的に良好な状態になることを指す。


    同資料の中では、具体的な施策として「働き方を労働者が主体的に選択し、円滑な移動や転換、マルチキャリアパスを可能とするための環境整備の推進」「企業による個人の希望・特性等に応じた雇用管理の推進」「多様な働き方の実現」などが挙げられています。

    健康経営の推進

    経済産業省では、企業が従業員の健康管理に重点を置いた経営を行えるよう健康経営への取り組みを推奨しています。

    健康経営の推進の背景として、長時間労働がもたらす過労死が社会問題化し、従業員が安全に働ける環境の整備が必要であることが認識されてきたという点が挙げられます。

    身体的な健康に重点を置く健康経営に加え、ウェルビーイングに着目して社会的・精神的にも満たされた状態になることで、従業員がより健康な状態で仕事に取り組むことが可能となります。

    新型コロナウイルス感染症の影響

    2020年より続く新型コロナウイルス感染症の影響により、テレワークが普及し、業務効率化が進みました。しかしその反面、従業員同士のコミュニケーションが不足することにより、メンタルの不調に悩む人も増加傾向にあります。

    従業員同士が良好な人間関係を築けている職場では、生産性も高まりやすくなります。従業員のモチベーションが高い職場では、一人ひとりがやりがいを持って仕事に取り組むことができるようになるでしょう。

    SDGsに関する動き

    SDGs(持続可能な開発目標)とは、2015年9月に国連サミットで採択され、2030年までに持続可能でより良い世界を目指す国際的な目標のことを指します。

    SDGsでは、17のゴールが定められています。その3つ目の項目として「GOOD HEALTH AND WELL-BEING(すべての人に健康と福祉を)」が設けられています。

    ウェルビーイングに関する理論や調査

    ウェルビーイングに関する理論や調査については、さまざまなものが報告されています。指標と照らし合わせることで、自社がウェルビーイングを実現するために必要なものが見えてくるでしょう。
    ここからは、主な理論や調査を3つ取り上げ、紹介していきます。

    世界幸福度ランキング

    「世界幸福度ランキング」とは、国連が発表しているランキングです。人生における幸福度について、各国の人々に対し聞き取り調査を行ったものです。

    この調査では、1人当たりの国内総生産や社会的支援、健康寿命、社会的自由、汚職の数などの評価項目について、国や地域ごとに数値化し、分析して、過去3年分の平均値を算出し、ランキング化します。

    2022年3月に国連が発表した「世界幸福度ランキング2022」では、日本のランキングは54位です。これは先進国の中では決して高い順位ではありませんでした。

    日本は、1人当たりの国内総生産や健康寿命については高い数値が示されているものの、社会的支援や社会的自由については低い数値が示されていたのです。

    このランキングを基にして日本国内でのウェルビーイングを高めるためには、従業員が自由に人生を選択できる職場環境へと改善していくことが、重要となってくるでしょう。

    ギャラップ社が定義するウェルビーイングの5つの構成要素

    アメリカの調査会社ギャラップ社により定義されている、ウェルビーイングを構成する要素は次の5つの要素です。[注2]

    これら5つの要素については、国籍などのバックグラウンドを問わず、すべての人に当てはめることが可能です。

    次の5つの要素を実践することにより、企業のウェルビーイング向上を推進していきましょう。

    • Career Well-being:「キャリアの幸福」
      ⇒自分の時間を好きなことに使えているか、または毎日の仕事が好きか
    • Social Well-being:「人間関係の幸福」
      ⇒人生のなかで強い人間関係と愛情を持っているかどうか
    • Financial Well-being:「経済的な幸福」
      ⇒「経済的な豊かさ」があるかどうか
    • Physical Well-being:「身体的な幸福」
      ⇒健康で、日常的に物事を成し遂げるのに十分なエネルギーを持っているかどうか
    • Community Well-being:「コミュニティの幸福」
      ⇒住んでいる地域に関わっているという感覚があるかどうか

    [注2]GALLUP/The Five Essential Elements of Well-Being

    PERMAモデル

    PERMAモデルは、ウェルビーイングを実現するために必要な5つの要素を定義したもので、ペンシルバニア大学のマーティン・セリグマン博士により提唱されています。

    このPERMAモデルは、以下の5つの要素により構成されています。職場ではどう捉えるべきか補足も一緒にご紹介します。

    • Positive emotion:ポジティブな感情
      ⇒ポジティブな感情で職場にいることができているか?
    • Engagement:没頭、楽しいことに関わる
      ⇒仕事にはどのような状態で取り組んでいるか、没頭できているか?
    • Relationship:豊かな人間関係
      ⇒職場の人間関係は良好か?
    • Meaning:人生の意味や意義を肯定的に捉える
      ⇒人生において仕事はどんな意味を持っているか?
    • Accomplishment:達成、マスター、やり遂げること
      ⇒仕事で達成感は得られているか?

    企業におけるウェルビーイングの事例

    企業におけるウェルビーイングの事例も多数紹介されています。

    以下、具体的な4社の事例を取り上げていきます。企業活動での参考にしてみてはいかがでしょうか。

    Google

    Googleでは、従業員の生産性を向上させるためのプロジェクトとして、2010年から4年をかけ「プロジェクト・アリストテレス」を実施しました。

    その研究結果としてわかったことは、「心理的安全性」「相互信頼」「構造と明確さ」「仕事の意味」「インパクト」の5つの要素が、生産性の高いチームを作る重要なポイントだということです。これらの要素はウェルビーイングの実現においても重要です。

    中でも「心理的安全性」については、従業員の精神面の安定を促すことから注目されており、社内の生産性の向上に向けた取り組みに活かしています。

    味の素

    味の素グループでは、2018年に健康宣言を制定しており、従業員専用の健康情報の専用ポータル「My Health」の設置等、社員の健康維持や増進を目的とした職場環境の整備を行ってきました。

    ウェルビーイングを意識した働きやすい職場環境を提供することで、優秀な人材の採用が見込まれ、離職率の低下も期待できるようになっています。

    楽天

    楽天株式会社では、従業員の健康を維持し、よりよい精神状態で業務にあたれるよう、「楽天健康宣言:Well-being First」にのっとった取り組みを行ってきました。

    社内設備の充実やコレクティブ・ウェルビーイングの概念に基づいたガイドラインの発行、三間(さんま)と余白の概念の重視など、他社とは異なる独自の取り組みで、従業員のウェルビーイング向上を推進しています。

    アシックス

    株式会社アシックスでは、「アシックスの健康経営」とし、従業員の健康は最も大切な要素と位置付け、従業員の健康的な生活の実現を目指した取り組みを行っています。

    主な取り組みとして、従業員の健康状態を把握するための検診やストレスチェック、保健師による面談、また、全社員に向けたメンタルヘルス研修などを実施しています。

    企業におけるウェルビーイング実現のメリット

    ウェルビーイングにより、企業は従業員が働きやすい環境を提供することができるようになります。

    以下、具体的なメリットをご紹介します。

    企業価値が向上する

    ウェルビーイングに積極的に取り組む企業は、企業価値の向上が期待できます。

    特に近年、環境(Environment)や社会(Social)、ガバナンス(Governance)の視点を取り入れたESG投資の動きが活発です。ウェルビーイングの実現は特にSocialの部分へのインパクトがありますので、対外的にも企業価値の向上を示すことができるでしょう。

    また企業の社会的価値が高まれば、優秀な人材も集まりやすくなるでしょう。

    ワークエンゲージメントが向上する

    ウェルビーイングによって、従業員のワークエンゲージメント(心の健康度)が向上します。
    このワークエンゲージメントとは、熱意・没頭・活力のすべてが揃って充実している心理状態を指します。
    ワークエンゲージメントが向上することで、従業員の生産性も高まり、企業の業績アップにもつながっていきます。

    離職率の低下

    ウェルビーイングを実践することで、従業員の仕事へのモチベーションがアップすると、同じ職場への定着率が高まります。

    結果として、従業員の離職率低下につながり、採用コストの削減も見込めるようになるでしょう。

    組織のレジリエンスが高まる

    個々の従業員が幸福感を感じながら仕事を進めることができれば、自然と困難を乗り越えて成果を出すことのできる職場環境が醸成されていきます。

    つまり、ウェルビーイングを向上させることで、組織のレジリエンス(困難を突破する力)を高めることも期待できるということです。

    幸福度の高い社員は生産性が高い?

    幸福度の高い従業員は、生産性が高いとされています。

    幸福学の専門家として知られる慶應義塾大学大学院・前野隆司教授の研究データによると、幸福感と生産性には深い関係があることが紹介されています。
    その結果として、幸福感の高い従業員はそうでない従業員に比べて欠勤率は41%、離職率は59%低くなる傾向にあります。また創造性は3倍、生産性は31%、売上は37%高いとされています。
    ※参考:Lifehacker

    ウェルビーイングの取り組みで持続可能な経営へ

    肉体的、精神的、社会的に満たされた幸福が維持されている状態を指すウェルビーイング。政府が推進する働き方改革を実践するうえでも重要な要素とされています。

    従業員一人ひとりのウェルビーイングを実現することで、結果として企業の生産性や業績、企業価値の向上までも期待できると考えられるからです。

    また、ウェルビーイングを実現できている組織は予測が難しい外的要因に対しても柔軟に対応できると期待できます。「人的資本開示」などのキーワードに注目が集まるなか、今後の人事施策や経営戦略においては欠かせない要素となってくるでしょう。

    FAQ

    ウェルビーイング(Well-being)に関するよくある質問です。

    ウェルビーイングとはどういう意味ですか?
    ウェルビーイングとは、「幸福」を意味しており、肉体的、精神的、社会的に幸せな状態であることを指しています。ウェルビーイングを意識し、従業員の心身が常に健康な状態を維持することで、業務のパフォーマンス向上を促し、組織に良い影響をもたらします。
    ギャラップ社が定義するウェルビーイングの要素とは?
    Career Well-being:「キャリアの幸福」、Social Well-being:「人間関係の幸福」、Financial Well-being:「経済的な幸福」、Physical Well-being:「身体的な幸福」、Community Well-being:「コミュニティの幸福」の5つです。
    ウェルビーイングとポジティブ心理学の関連は?
    ペンシルバニア大学のマーティン・セリグマン博士によって提唱された「PERMAモデル」はポジティブ心理学の分野で提唱され、ウェルビーイングにおいても重要な要素としてとらえられています。

    この記事を書いた人

    M.F

    株式会社アックスコンサルティング マーケティング本部 WEB制作課所属。
    『HR BLOG』にて一般企業の経営者・人事担当者向けの記事を執筆するほか、主にメールマガジンで士業事務所の経営課題を解決するための情報配信を行っています。

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