オンボーディング Onboarding 「新卒社員」や「中途社員」が辞めない仕組みづくり
『オンボーディング』とは、新入社員をスムーズに社内に溶け込ませ、パフォーマンスを上げさせるための一連の仕組みづくりを言います。この冊子ではHR先進国であるアメリカ企業の事例も踏まえ、人材育成のための最新のメソッドを解説。
オンボーディングの具体的な取り組み方をご紹介しています。
HR駆け込み寺
公開日:2020.5.21
目次
「将来、会社のリーダーとして組織を引っ張っていく存在になってほしい」という期待から、企業によっては有望な新入社員を「ゼネラリスト」として育成しようと、あえてさまざまな部門に配属して業務を知ってもらうケースがあります。このように社員のキャリアパスを考えながら計画的に行う人材配置であれば、会社にも社員にもメリットはあります。しかし、世の中には「育休復帰後に遠方の支社へ転勤させられた」「転勤OKという条件で入社してもらったのに、いざ入社したら転勤を断られた」など、配置転換にネガティブな印象を与える事例がまだ少なくありません。会社は社員の配置転換をどのように進めたらスムーズに行えるのでしょうか。そして社員はどうしても納得できない人材配置について、どう対応したらよいのでしょうか。人事・労務トラブル解決のプロフェッショナルである社会保険労務士の五味田匡功(ごみたまさよし)先生にアドバイスしていただきます。
コールセンター事業をしている会社の人事部長です。半年前に前任の人事部長退職に伴い、後任として転職してきました。今回は、中途入社で正社員としてコールセンターに勤務している、幼い子供がいる女性社員の配置についてご相談です。
会社としては24時間365日体制でヘルプデスク業務を行っており、夜勤業務の部門もあります。今回相談する女性社員は幼い子供がいるので、前任の人事部長のときに「夜勤業務のある部門には配属しない」という前提で入社したそうです。
しかしその後、経営陣が大きく変わり、彼女の直属の上司も代わり、夜勤を行う部門への配置転換の打診が彼女にあったそうです。
彼女の夫は別の会社で働いていて、フレックスなどの制度がなく、勤務時間の融通がきかない会社のため、毎日子供の保育園の送り迎えを行うのは難しい状態とのこと。二人とも両親が地方在住かつ年配のため、家族の支援を受けるのも厳しいようです。
確認したところ、前任の人事部長が、彼女の入社時に契約書を用意していなかったようで、夜勤業務に配置しない旨を明記した書面がない状態です。
彼女は正社員のまま働き続けたいと考えています。夜勤を断れない状況であれば転職せざるをえない、と考えているようです。人事としても、代わりに誰か夜勤業務が可能な人を配置させる必要がありますが、彼女にはこの夜勤への配置を理由に退職してほしくないです。
さらに困ったことに、この経緯を知った社長が「配置転換を拒否するような社員は後々もめるから退職してもらってかまわない。むしろ配置転換の拒否を理由に退職させられないか」と言っています。このような場合、どのような対策を取るのがよいでしょうか。
このケースですが、まず会社も本人もお互いに労働条件について合意事項を正式な書面にしておかなかったのがよくないですね…。働く人の方も入社時に当時の人事部長の口約束をちゃんと書面にしてもらうよう確認しておくべきでしたし、会社も会社で人事部長に適当なことを言わせたままで引き継ぎをせず、放置しておくのもよくないです。
「会社で働くのに契約書が必要だなんて言われなかったし、知らなかった」という意見があるかもしれません。しかし、働く人が労働基準法を知らなかったでは済まされないのです。なぜなら労働基準法は、業種や規模を問わず会社で働き、賃金を得る人はすべて自動的に対象となる強制法規だからです。
そういう面では労働基準法は道路交通法と似ています。道路交通法も、道路へ出たら自動的かつ強制的に法律の対象となります。一方通行の道を間違えて走って、警察に捕まったときに「知りませんでした」と言っても通用しません。労働基準法もこれと同じ理屈です。知識の有無に関わらず、会社で働く以上強制的に労働基準法の対象になるので、知っておくべきです。今回はすでに入社してしまった後ですが、本来であれば入社する前にきちんと契約書などの書面で勤務条件など不備や不利がないか、女性社員の方ご自身でも確認し、会社と詰めておくべきでしたね。
何か問題があったときにすべて会社のせい、と考えてしまうのはどうかと思いますが、だからといって会社側もまったく改善しないという姿勢であれば、それもよくないです。社長が「夜勤をしなければ退職を…」と言うようであれば、今回相談されている女性社員の方もそこまで自分を必要としていない会社に居続けるべきかどうか考え、いずれ離職してしまうでしょう。
ある意味、会社と従業員の関係は、ラーメン店と常連客の関係に似ているところがあります。たとえば、味は良いのにいつもぬるいスープを出すラーメン店があったとします。常連客は「もっと熱くしてくれ」と言います。それでスープが改善されれば常連客は満足して通い続けるし、改善されなければいつかは離れていくでしょう。いつまでぬるいスープを我慢するのか、という気持ち次第なのです。
では、これからどのように対策していけばよいでしょうか。女性社員に離職してほしくないのであれば、まず現時点で契約書がないとのことなので、まずはお互いの合意事項をきちんと書面にまとめましょう。彼女の場合、夜勤がNGということであれば、その条項を明記しておく必要があります。
そして、彼女以外に夜勤対応が可能な社員がいるのであれば、代わりの配置転換を考えましょう。スキルや条件的にどうしても彼女に夜勤をしてもらわいなと困る、といった特殊な状況でない限りは調整が可能かと思います。その代わり夜勤を引き受けた社員には、法律で定められた手当てをはじめ、厳しい条件で勤務をする分、手厚いフォローが必要でしょう。
原則として、社員が正当な理由もなしに人事異動を拒否した場合は、業務命令違反として懲戒処分の対象となりえます。しかし、「不当な動機による人事異動」「賃金が下がる」「人事異動による不利益が極めて大きい」といったケースの場合は、人事異動拒否が認められる可能性もあります。
今回のケースの場合、まだ女性社員のお子様が幼い、ということで「人事異動による不利益が極めて大きい」ケースに該当する可能性があります。人事部長として、「夜勤をしなければ退職を…」と言う社長に対して、人事異動拒否を認める必要がある可能性も説明し、理解してもらうようにしましょう。
「会社と従業員の健全な関係」は、従業員が「いつでも転職できるけれど、それでも自分はこの会社で働きたい」と感じているかどうかだと思います。この会社に所属していて嬉しい、自分の成長につながると実感できる、など会社と従業員がお互いに歩み寄り、エンゲージメントの高い状態にできるかどうかにかかっています。そのためにも、会社と従業員の「合意事項」をしっかり決めることが大切です。お互いに認識のずれが起きないよう、細かいところまですり合わせなければいけません。
この「合意事項」について夫婦関係でたとえると、プロポーズで奥さんに「君を幸せにするよ」と言ったとします。ところが夫が考える「幸せ」と妻が考える「幸せ」は違うんですよね。細かいところまでお互い合意して決めておかないと、夫は「俺はこんなにいろいろしてあげているのに…」と感じ、妻は妻で「何もしてくれない!」と感じてしまうのです。思い当たる節はありませんか…?
会社の契約もそうですし、面談時の目標設定も、夫婦や恋人の関係も、世の中のほとんどのトラブルは「合意事項」の定義で避けられると思います。しかし中には合意事項をしっかり決めていても、理不尽な理由でトラブルに至るケースも少なからず発生します。そのようなときこそ、問題を解決するために私たちのような専門家にご相談いただければと思います。
ソビア社会保険労務士事務所 所長 社会保険労務士/中小企業診断士
一般財団法人日本次世代企業普及機構(通称:ホワイト財団)代表理事
次世代に残すべき素晴らしい企業を発掘し、「ホワイト企業」として認定します。
ホワイト財団は、“次世代に残すべき素晴らしい企業”を発見し、ホワイト企業認定によって取り組みを評価・表彰する組織です。
私たちが考える「ホワイト企業」とは、いわゆる世間で言われている「ブラック企業ではない企業」ではなく、労働法遵守は大前提とした下記のような企業が、ホワイト企業と呼ぶにふさわしいと考えています。
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