オンボーディング Onboarding 「新卒社員」や「中途社員」が辞めない仕組みづくり
『オンボーディング』とは、新入社員をスムーズに社内に溶け込ませ、パフォーマンスを上げさせるための一連の仕組みづくりを言います。この冊子ではHR先進国であるアメリカ企業の事例も踏まえ、人材育成のための最新のメソッドを解説。
オンボーディングの具体的な取り組み方をご紹介しています。
オンボーディング
公開日:2019.3.4
オンボーディングを行うには、受け入れ態勢が重要です。しかし、そのほかにも評価やフィードバック、そして適切な能力開発を行うことが非常に重要なポイントになります。 職場全体でオンボーディングに取り組むにはどうすればいいのか、具体的にご紹介していきます。
目次
「オンボーディング」とは、英語で「on boarding」と表記し、「新人を採用し研修して即戦力に育てること」を意味します。仕事を円滑に進め、職場環境に早く馴染んで即戦力として活躍できる人材に育てるために、新人研修を行うことは必要不可欠といえます。この場合の新人とは、新卒社員だけを指すのではなく、マネジメント層に中途入社した転職者なども含む、企業に新しく入った社員全員を指します。オンボーディングは、サービス業やエンジニア職など業種や職種に関係なく、全ての職場環境で応用することができます。
米国では、オンボーディング・プロセスがきちんとある企業とない企業ではその後の定着率などが全く異なるとして、その重要性が認識されるようになってきました。
オンボーディングを通じて、新規社員と既存社員のコミュニケーションをスムーズにし、円滑に業務を進めていきましょう。
オンボーディングでは、新人のポテンシャルを最大限に引き出し、既存社員との融合を目指します。
一律で新人に行う研修・教育とは異なり、個々のキャリアやスキルにあわせたプログラムを行い、既存社員も巻き込んで職場全体で新しいメンバーを迎え入れるプロセスなのです。必要な研修を実施し、タイミングを逃さず、その都度的確なフォローを行い、必要な研修をし、受け入れ態勢を整えることで、チーム全体のパフォーマンスを向上させることにつなげます。
新卒社員だけではなく、中途採用社員にも「新人研修」を行い、受け入れ側である既存社員へも教育を行い、職場全体でオンボーディングに取り組むようにしましょう。既存社員のメンター候補者にもきちんとオンボーディングの意図を伝えておくのが重要です。
新人が即戦力として活躍するためには、「“最大限のポテンシャルを引き出すこと”」が必要とお伝えしました。そのためにも、プログラムの評価とフィードバックをその都度行い、新人のモチベーションを高めながら職場全体で相互理解を深めていきましょう。
新人研修で大切なことは、“会社の価値観を共有すること”と“会社の風土を理解し意思決定のプロセスを学ぶ”ことです。さらに、マネジメント層には「社内規範」を正確に理解してもらうことも必要です。オンボーディングでこれらの教育を行い、研修・教育期間を短縮して、いち早く即戦力として活躍できるようにしましょう。
それでは、オンボーディングの具体的な流れについてご紹介します。
先ほどお伝えしたとおりオンボーディングでは、新人のポテンシャルを最大限に引き出し、既存社員との融合を目指すとお伝えしました。そのため新入社員の早期離職防止・早期戦力化だけでなく、新入社員の加入によって組織全体の生産性を高めることを目的にしたものです。オンボーディング・プロセスは、入社後1年目まで続くのが特徴です。
オンボーディング・プロセスは、日本の会社でも真似できる要素はたくさんあります。 そこで、ここではマサチューセッツ工科大学(MIT)のオンボーディング・プロセスをもとに、日本の企業でもすぐに取り入れられる部分を抜粋し、チェックリスト化したものをご紹介いたします。
1つ1つは、すでに多くの日本企業で導入されていることではあります。しかし、この概念で大切なのは、「入社後1年目くらいまでの長期的なスパンで行う」ことと、「周囲との関係構築もサポートしながら、体系的に、継続的に行う」ということです。
それでは、実際にチェックリストを見ていきましょう。
入社前
□雇用契約書を用意する
□入社日、入社時間、勤務時の服装のルールなどについて新入社員に案内する
□定期的なミーティングに参加するように社内調整する
□新入社員に最初に任せる仕事を用意する
□メールアカウントを作成する
□業務に関連する部署やキーパーソンとのミーティングを最初の数週間の間に設定する
□初日と最初の1週間、社内の適切な先輩社員や教育担当との昼食を設定する
□教育担当を選ぶ
□教育担当とミーティングをし、情報提供やアドバイスを行う
□社内を案内するツアーを設定する
□仕事を始めるにあたって必要事項(ウェルカムレター・名刺・担当業務の仕事内容の説明・組織のミッションやビジョン・社内の問い合わせ先の内線リスト)をまとめた入社歓迎セットを渡す
□職場を掃除しておく
□ネームプレートや名刺を発注する
□関連するメーリングリストに追加する
□パソコンやiPadなど必要なものを用意する
□社内システムにアクセスできるようにしておく
□電話を設定する
□必要な教育研修を用意する
入社当日
□1週間のスケジュールを明確に伝える
□組織の説明をする
□仕事内容の確認と、期待していることを伝える
□1年間の休暇や休日、有給の取り方、残業時間などについて説明する
□職場の同僚に紹介する
□教育担当と顔合わせをする
□一緒に昼食をとる
□社内を案内する
1週間目
□最初のミーティング、研修、今後の仕事を設定する
□部署や組織が目指す目標や提供したい価値について説明をする
□年間計画と各業務の達成・進捗状況を説明する
□主任やリーダー職など組織のキーパーソンとの面談(または昼食)を設定する
□パソコンや携帯など、仕事に必要なものがきちんと機能しているか、社内システムなどの使い方を理解しているか確認する
1ヵ月目まで
□定期的な1対1の面談を設定しておく
□毎日適切なフィードバックを行う
□新入社員からの質問にはいつでも答えられるようにしておく
□マネジメントシステムや評価システムを説明する
□今期の目標設定を行い、さらなる仕事を与える
□関連部署のキーパーソンに新入社員を紹介する
□教育担当とも面談を行い、疑問・懸念点の解消に努める
□必要な研修を実施する
3ヵ月目
□定期的な1対1の面談を続ける
□3ヵ月の振り返りを行う
□少しずつ難易度の高い仕事を任せる
□昼食に誘い、仕事に関係ない雑談をする
6ヵ月目
□6ヵ月の振り返りを行う
□今後の目標設定を行う
□関連部署以外の活動に参加する機会をつくる
□教育担当のフォロー期間終了。最後に6ヵ月間どうだったか、どんなことが役に立ったかを確認する。
6ヵ月目から1年目まで
□新入社員の成果を評価する
□日々のフィードバックを続ける
□入社から今までの職場、仕事、環境の変化による心境の変化や、入社前に期待していたことと現状のギャップの有無、今後やりたいと思っていることの確認
このように、細かいところまでリスト化されていることがわかります。きめ細やかなフォローが定着率の向上や早期戦力化につながります。このマサチューセッツ工科大学のオンボーディング・プロセスを参考に、自社に合わせたオンボーディング・プロセスのチェックリストを作成してみましょう。
チェックリストを見ていくと、最初の1週間目までにすることが多いのがわかります。早期離職を防ぐために、オンボーディングを成功させる方法をお伝えします。
厚生労働省の発表(2018年)によると、新卒労働者の3年以内離職率は32.2%です。つまり、3人に1人は離職していることになります。社員の早期離職は、採用にかかったコストや教育コストがすべて無駄になり、企業にとって大きな損失につながります。
それでは、早期離職の理由を見ていきましょう。
入社前のフォローが手薄だと、入社前にイメージしていた業務内容と実際の業務内容との間にギャップが生じます。新卒・中途採用関係なく、実際の業務がイメージと違ったという事実もあります。
新入社員にとって、すでに構築された人間関係の中に1人飛び込むことは、大きな不安です。最初につまづいてしまうと、そのあともうまく対人関係を築くことができません。自分だけ馴染めていないと思ってしまい、部外者のように感じることがあります。
これらの入社直後に発生する問題を解決するため、オンボーディングで新入社員が入社してすぐに活躍できる環境を整えましょう。
オンボーディングが注目され始めたのは、新入社員を早く戦力化するためという理由だけではありません。オンボーディングが必要とされる理由をご紹介します。
入社後のギャップは、入社前のイメージと実際の業務が違うことで生じます。しかしギャップが生じる背景には、仕事にうまく適応できていない、会社に対する思い入れを持てていない、ということもあげられます。オンボーディングをすることによって、業務と組織にうまく馴染んでもらい、入社後のギャップを和らげることができるでしょう。
短期間で退職してしまった人材1人に対して、費やすコストは100万円を越えるともいわれています。オンボーディングにより離職率を低下させることで、損失コストを抑えることにもつながります。
オンボーディングによって、より早く組織の一員として認められると、自分の立ち位置や働き方、組織に対する関わり方が明確になります。組織との一体感が生まれ、自社への愛着が高まり、エンゲージメントが向上していくとされています。
オンボーディングは会社へより早く適応してもらうだけでなく、より迅速に業務をこなせるようになってもらうことにもつながります。適切なオンボーディングを行い、自社のツールやメンターによる業務内容の伝達をしっかり行うことで、より早く戦力として活躍できるようになります。
それでは、オンボーディングを成功させる3つのポイントをお伝えします。
早期離職の防止や、新人がすぐに活躍できる環境づくりにつながるオンボーディングですが、どんな問題も解決できるわけではありません。今、会社が抱える課題を明確にした上で取り組まなければ、期待する効果を得ることはできません。オンボーディングを実施する前に、自分たちの課題を明確にし、解決する最適の方法を選択しましょう。
オンボーディングで、研修やメンター制度などを実施してそのまま放置していては、コストや社員の負担を増やしているだけになる可能性もあります。必ずオンボーディング実施後には離職率やエンゲージメント率を測定して、効果があったのか確認しましょう。
採用担当者は、何が効果的だったのかを知るためにも、オンボーディングを受けた新入社員にヒアリングしましょう。新卒社員の意見・要望からより効率的に離職率の低下につながる施策を考えましょう。
オンボーディングは、既存の社員をいかに巻き込むかがポイントとなります。新入社員に教えることで、既存社員の帰属意識も高まります。既存社員に登壇者になってもらい会社についての想いを語ってもらったり、入社日の昼食にできるだけ多くの社員に参加してもらったりするだけでも様子は変わってきます。できるだけ多くの既存社員を巻き込みながら、新入社員を即戦力として活躍できる人材に育て、会社の発展に繋げましょう。
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