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コーチングとは?効果や必要なスキルと資格、人材育成での活用方法を解説
公開日:2022.11.8
どのように優秀な人材でも悩みを抱えたりつまずいたりする経験はあります。そんな従業員の悩みを放置すると業績が下がったり、離職率が高まったりしてしまうかもしれません。
そこで、適切なフォローのために必要なのがコーチングです。コーチングとはどのようなものなのか、なぜ人材育成に役立つのか、さらにメリット、デメリット、人材育成に活用する具体的な方法を解説します。
目次
コーチングとは?
コーチングは相手の話を聞き、必要であればアドバイスをして悩みを解決へ導くサポートをするものです。悩みに対する一つの答えを提案するのではなく、問題の根源は何なのか?どうすれば問題を解決できるのか?といったことを相手に気付かせること、相手が自らの決断を下すことが目的です。
コーチングによって、
- 相談者のモチベーションが上がる
- 目標を持って行動できる
- 自己実現のために自分らしいやり方を見つけられる
などのメリットを得られます。自主性、自立した精神は、ビジネスシーンはもちろん、日常シーンでも良い影響を与えるでしょう。
企業がコーチングを取り入れる例も多いますが、学校や家庭で、個人でもコーチングを受ける人が増えています。
カウンセリングとの違い
コーチングと似たコミュニケーションにカウンセリングがあります。カウンセリングの方が知名度も高く、馴染み深いと感じることもあるようです。
しかし、コーチングとカウンセリングは行う目的、アプローチ方法が大きく違います。
コーチングは目標を設定し、目標をクリアする中で成長していくことのサポートが主な目的です。未来を考えてアプローチしていくのがコーチングです。
一方でカウンセリングは、相手の抱えている悩み、不安を解消するために過去にアプローチします。コーチングは成長を目指しますが、カウンセリングはマイナスの状態から悩み、不安のないゼロの状態に戻すだけでも違っています。
ティーチングとの違い
コーチングとティーチングは相手との関係、やりとりの方向性が大きく違います。
コーチングはあくまでも対等な関係で、相手に寄り添いながら今後のことを考えていくものです。質問や提案を受け入れ合い、成長のための気付きを与えます。
ティーチングは一定の経験、スキルを持つ人が、経験やスキルがない人に対して指導を行うことです。双方の間には上下関係が生まれ、指導する側とされる側と、コミュニケーションの方向も一方通行となります。
コーチングと聞くとスポーツのコーチのようにアスリートを指導する様子を思い浮かべてしまうかもしれません。しかし、スポーツのコーチのように相手と明確な上下関係があり、自身の経験から指導を行うのはティーチングです。
コーチングの歴史
コーチングのつづりはcoachingで、馬車の意味のcoachが由来です。
車のない時代、馬車は人々を希望の場所に送り届けるためのものでした。コーチングは相手の目標、理想にたどり着けるようなサポートを目的としていることからこの名前がつけられました。
コーチングの言葉が初めて登場したのは1959年です。アメリカのマイルズ・メイル氏が自身の著書にてマネジメントで重要なスキルとしてコーチングを紹介しました。
その後1990年代にコーチの育成機関がスタートし、非営利団体であるInternational Coaching Federationが設立されたことからアメリカだけでなく世界中で注目されるようになったのです。
現代では主に企業がコーチングを取り入れており、組織開発やリーダーシップ開発など、人材育成のために活用されています。人材育成にはこれまでにもさまざまな方法が提唱されており、どのスタイルが合うかは企業や目的によっても違うため、注意しましょう。
中でも今後の新しい人材育成方法としてコーチングは注目されています。
コーチングのメリット
コーチングをビジネスに取り入れることでさまざまメリットがあります。
個人の成長だけでなく企業の業績アップにもコーチングがつながる理由をチェックしましょう。
主体的に行動できるようになる
コーチングでは相手の主体性を尊重したコミュニケーションをとっていきます。
コミュニケーションの中で相手は目標達成のための手段を自分で考え、さまざまな気付きを得られます。自分で考える、決断する流れを繰り返すことで主体性が高まり、自ら行動できる人材へと成長できるのです。
もし失敗しても失敗したことに落ち込むのではなく、どこに原因があったのか、次に何をすればいいのかを考えられ、どんどん成長していけます。
上司と部下の信頼関係ができる
上司が部下に対してコーチングを行うと信頼関係が深まります。上司から一方的に指示を出す従来の仕事の進め方は、部下が自ら考える機会を失いかねません。
しかし、コーチングを行うことで部下は自分で考えられるようになり、自分の考えを上司に伝えやすくもなります。一方通行なコミュニケーションではなく、双方が意見を交わせるようになれば、従来よりも理解が深まってよりよい関係を築きやすくなるでしょう。
上司が押しつけるだけでは生まれなかった新たな考え方、仕事の進め方が見えてくることもあり、企業全体のさらなる成長へつなげることも可能です。
モチベーションと生産性がアップする
従業員が悩みを抱えたまま、仕事を続ける目的がわからないまま放置していると、働くモチベーションが下がってしまいます。モチベーションが下がると新しいことにチャレンジしたり周囲とコミュニケーションを取ったりすることも億劫になり、生産性の低下を招きかねません。
そんな状態が長期間続けば、従業員は「今の会社でなくてもいい」と考えるようになり、離職率を高めることにもつながります。
コーチングで従業員自身が自分の目的や問題解決方法に気付けば、仕事へのモチベーションが高まります。また、従業員一人ひとりの成長を促すことも可能です。
一人ひとりの生産性の向上は結果的に企業の業績の向上へとつながっていきます。
コーチングは長期的な目で見ても非常に有益なコミュニケーション方法です。
周囲が知らなかった情報を知れる
業務を行う上では必要のないことでも、従業員が優れた才能を持っている可能性は充分にあります。コーチングを行うと本人の性質、才能が見えてきて、新しい業務に役立つ可能性もあるでしょう。
周囲が知らなかった個人の情報を知ることでコミュニケーションのきっかけが増えたり、本人の新しい気付きにつながることもあります。一般的でない考え方でも、本人が自己の成長のために考えたことが意外な発見になったりするかもしれません。
じっくり考える時間を作れる
日々の業務をこなすことで精一杯な環境では自分自身のことを考える時間は持てません。
目の前の業務を黙々とこなしていると、自分が本当にやりたいことを見失ってしまったり、悩みを解消できず余計なストレスを溜めてしまったりする可能性もあります。
コーチングの時間を設けることで自分自身についてじっくり考える時間を持てるのです。
今の業務に満足しているのか、何に不満を感じているのか、どうすれば解決できるのかなどをしっかり考えれば、現状を打破してよりいきいきと業務に取り組めるでしょう。
コーチングのデメリット
個人の悩みを解決する手段を自ら見つけさせることでモチベーションや生産性を向上できるコーチングですが、メリットばかりではありません。
デメリットも確認し、コーチングを導入する際はどのようにデメリットをカバーすればいいのかも合わせて考えておきましょう。
短期間では効果が出ない
コーチングは目標に対してどのようにアプローチしていくか考えて実行するサイクルを繰り返していく中で成長を促す方法です。
一度コーチングを行えばすぐに効果が出るものではないので、短期間での効果を期待すると思うような成果は出せません。
しかし、本人の気持ちは、外からは見えなくても確実に成長しています。実際に本人の成長、企業の業績として結果が見えてくるのはかなり先になるでしょう。
あくまでも目に見える結果が欲しい場合は期間を設け、そこに合わせて目標を設定するなどの工夫が必要です。
アプローチに時間がかかる
コーチングは一対一で行うのが基本です。
セミナーや研修のように一人の講師が複数の相手に対して行うものではないので、その分多くの時間と手間が必要です。
コーチのスキルを持つ人が少数の場合は、従業員一人ひとりと対話するために他の業務を疎かにしてしまう可能性があります。
また、コーチングができる人が多くてもコーチのスキル、性格によって相手との相性が悪ければ思うように成果を出せません。
外部にコーチングを依頼する方法もありますが、従業員が多い企業だと依頼料も高額になってしまうので注意が必要です。
どのような人材を育成したいのかを明確にし、必要な人にだけコーチングを受けさせるようにするなどの工夫も考えましょう。
自社で多くの時間を割かずにコーチングを行いたい場合はグループコーチングを取り入れる方法もあります。
しかし、グループコーチングを行うためにはコーチングとは別のファシリテーションスキルも習得しなければなりません。
コーチの相性やレベルが影響する
コーチングはただ話を聞く、アドバイスをするといった単純なコミュニケーション方法ではありません。
コーチングを行うにはさまざまな専門スキルを身に着ける必要があります。
スキルの習得が甘いコーチがコーチングを行うと適切な結果が出せなくなってしまいます。
コーチングにはたくさんの考え方があり、どの方法でスキルを身に着けるかによっても得られる結果は変わります。それぞれの考え方、流派を確認した上で、望ましい結果に導けるのはどのコーチングかを見極めなければなりません。
コーチングを外部に依頼する際は、コーチングスキルが高いコーチを探すことも大切です。
また、どのような質のいいコーチングを受けられたとしても、相手との相性で結果も左右されます。
コーチングスキルを持っているとはいえコーチも人間ですので、相性はあります。
相性の合わないコーチに当たってしまうと自分の考えをうまく表現できない、自分ではなくコーチが望むような答えを出してしまうなどのデメリットにつながり、よい成果は出せません。
何度も行う必要がある
コーチングは一度行うとすぐ効果が出る、効果が永続的に続くものではありません。
最終的な目標のために小さな目標を設定し、達成に向けて試行錯誤を繰り返しながら成長を促すため、合間に再びコーチングを行って軌道を確認していく必要があります。
外部にコーチングを依頼する場合はコーチングにかかる費用が膨大になってしまうかもしれません。
継続的に支払い続ける金額か、コーチングの時間を用意するだけの業務内容の余裕があるかなどを確認しなければなりません。
離職率が高まる可能性がある
コーチングは自己の成長を促すためのものです。
どのような目標を立て、どのような方法でチャレンジし、何を得たいのかは人によって大きく違います。中には、自己の成長を考える中で転職、離職を考える人も出てくるでしょう。
今の業務では自分が成長できない、自分の成長のためには別のことにチャレンジする必要があるなどの理由で優秀な人材が離れていく可能性もあります。
コーチングがきっかけで転職、離職を考える従業員が出た場合、新しい事業を任せる、報酬を見直すなど、企業側の工夫も求められます。
コーチングに必要なスキル
実際にコーチングを取り入れる前にはコーチングに必要なスキルを身に着けなければなりません。
コーチングには主に傾聴、承認、質問の3つのスキルが求められます。それぞれにはどのような特徴があるのかを確認しましょう。
傾聴
傾聴は文字のとおり相手の話を聞くことですが、より深い部分までしっかり聞くこと、話の内容だけでなく表情や仕草、話し方、声のトーンにまで気を使うことまで含まれます。
人の話を聞いているとつい口を出したくなってしまいますが、傾聴は相手の話をそのまま受け入れる姿勢が大切です。
そして否定したり自分の体験だけを話したりするのではなく、相手の悩みに共感する力も求められます。
コーチングを受ける側の人がしっかり話を聞いてもらえると、話しながら自分で考えを整理できたり、自分の悩みに向き合えるようになったりします。
余計なアドバイスなどが与えられないため、自分で考える力、積極的に問題に向き合う力が高まり、コーチングの成果が出やすくなります。
また、相手の話を聞き共感すると相手はコーチに心を開き、より深い部分まで話しやすくなります。
安心して話せる信頼関係を築いた上で自分の目標や手段をじっくり考えられるようになるでしょう。
コーチングと似たコミュニケーション方法としてカウンセリングを紹介しましたが、カウンセリングでもこの傾聴は重要です。
承認
承認は相手を認め、褒めたり長所を指摘したりするスキルです。
本人でも気付いていないような点、本人が当たり前だと思っている点でも、他の人から見れば非常に優れた才能を持っているかもしれません。
長所や才能を見つけてあげて、嘘ではない心からの言葉で認めてあげることが大切です。
たとえ見つけられたとしても相手に伝えられなかったり、うまく伝えられなかったりするようでは意味がありません。
いいと思った点はあとからではなくすぐに褒めることで、相手にとって強い印象を与えられます。
そしてどんな点が優れているのか、細かな部分までしっかり褒めるようにしてください。そうするとどの部分を伸ばしていけばいいのかを考えやすくなります。
褒められると人は褒められた行動を繰り返すようになり、長所をさらに伸ばしていけます。
最初は少しでも多くの長所を見つけてたくさん褒め、コーチングを繰り返す中で徐々に頻度を減らしていくテクニックもあります。
その後本人が思い悩み、成長が止まってしまいそうなときに再び褒めることで、より強い印象を残せます。
質問
人から悩みを相談されるとアドバイスや自分の経験を話してしまいがちです。
しかし、自分が相談したときに返ってきたアドバイスや相手の経験が悩みの解決には何の役にも立たないケースは少なくありません。他人からの指摘を受け入れにくい、反発したくなることもあります。
コーチングでは、コーチはアドバイスや自分の経験を語ることはありません。
相手の主体性を尊重し、自分で考えられるために行うのが質問です。一つの悩みに対して人によってさまざまな質問が考えられますが、より話の内容を掘り下げる質問、さらに視野を広めるための質問、相手の話をようやくする質問など、話の内容や相手の出す雰囲気などによって質問の趣旨を変える必要があり、高いスキルが求められます。
質問スキルを身に着けるのは大変ですが、簡単に取り入れられる方法としては相手がイエスかノーで答えられる質問ではなく、相手が自分の考えを答えられるような質問がコーチングに向いています。
「お昼は食堂に行った?」ではなく「お昼はどうしていたの?」と聞くように、より自由な回答ができる質問を心がけましょう。
質問を重視するあまり必要以上に質問を繰り返したり、相手に趣旨が伝わらない質問をしたり、回答に悩むような難しい質問をしたりするとかえってコーチングの成果が出にくくなってしまうので、バランスを考える必要もあります。
ビジネスに活かせる!コーチングに関する資格
コーチングを行うにはさまざまなスキルが必要です。
独学で習得するのは難しいですが、資格取得に向けて勉強するとより効率的にスキルを身に着けられます。
ビジネスでも役立つコーチングの資格を2つ紹介します。
コーチングスキルを身に着けて従業員の育成に役立てたい場合は、下記の資格もチェックしてみてください。
日本コーチ連盟認定コーチ/日本コーチ連盟認定コーチング・ファシリテータ
一般社団法人日本コーチ連盟が主催するコーチングの資格にはI種の(社)日本コーチ連盟認定コーチとII種の(社)日本コーチ連盟認定コーチング・ファシリテータがあります。
コーチングの専門的なスキル、技術があるかを評価し、さらなる技能向上を目指す意図で資格を認定しています。
さらに、コーチングを行う人の社会的地位の向上、正しいコーチングを普及する目的もあります。
I種(社)日本コーチ連盟認定コーチは論文と実技の試験があり、スキルが正しく身に着いているかを重視した採点を行います。
II種の(社)日本コーチ連盟認定コーチング・ファシリテータは学科と実技の試験があり、論文試験はありません。
(一財)生涯学習開発財団認定コーチ資格
コーチ・エィ アカデミア主催の(一財)生涯学習開発財団認定コーチ資格は、コーチングをビジネスに活かして従業員の成長を目指すための資格です。
コーチング型マネージャーとして従業員のコーチングだけでなく、自身の振り返りや、取引先・社外の人とのコミュニケーションに役立てることができます。
初級者向けの認定コーチ資格と中級者向けの認定プロフェッショナルコーチ資格、さらに上級者向けの認定マスターコーチ資格があります。
認定コーチ資格ではコーチングの基礎知識と経験があることが証明できます。
認定プロフェッショナルコーチ資格は基礎以上のコーチングの知識と経験があることを証明します。
認定マスターコーチ資格はコーチングマネジメントにおいて、組織で活用できるだけの知識と経験があることを証明する資格です。
コーチングスキルを身に着けて人材育成に役立てよう
中長期的な人材育成の方法として注目されているコーチングを解説しました。
コーチングは指示やアドバイスを一方的に行うティーチングや過去の問題を解決するカウンセリングとは違い、本人が自分で考えて問題解決に取り組む、自己の成長を促すためのコミュニケーション方法です。
コーチングによって人材育成を行うことで従業員一人ひとりの自主性やモチベーションが高まり、企業の業績にもよい影響が期待できます。
外部に依頼する方法もありますが、スキルを身に着ければ社内でもコーチングを行うことは可能です。
必要なスキルを身に着けるための勉強方法として資格を取得するのもおすすめです。
人材の成長、ひいては企業の業績アップのために、コーチングを導入する準備を始めましょう。
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