オンボーディング Onboarding 「新卒社員」や「中途社員」が辞めない仕組みづくり
『オンボーディング』とは、新入社員をスムーズに社内に溶け込ませ、パフォーマンスを上げさせるための一連の仕組みづくりを言います。この冊子ではHR先進国であるアメリカ企業の事例も踏まえ、人材育成のための最新のメソッドを解説。
オンボーディングの具体的な取り組み方をご紹介しています。
人材育成・開発・研修
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目次
働き方や働く側の意識が多様化している時代。これまで一般的だった終身雇用に陰りが見え始め、転職に対するマイナスイメージが減っています。また、スキルアップや見分を広めるためなど、副業を持つ人たちも増えているようです。
このような時代のなかで、多くの会社に配置されている人事はその役割をしっかりと理解し、自社にとって必要な人材の確保や育成に努めなければなりません。
では、時代の変化に対応していくためには、これからどういった人事を目指していくべきなのでしょうか。ここではその一助となる基本的な人事の役割や身に付けるべきスキル、トレンドなどをお伝えしていきます。
業種を問わず、多くの企業に設置されている人事部門ですが、そもそもなぜ、会社に人事担当が必要なのでしょう。
その理由は、自社の経営戦略に合わせて必要な人材を見極め、自社が抱えるリソースを適切に配置していくためです。現代は高齢化による労働人口の減少や雇用制度の変化によって、人材の確保が難しくなっています。さらに、転職が珍しいことではなくなり、より条件のよい働き方を求めて人材が他社へと流れてしまうことも多くなってきています。
だからこそ、企業は優秀な人材を求めて採用競争を続けるために、採用から教育、評価など人を維持する仕組みを専門的に行う人事が必要となったのです。
このように、人事は社内の活性化・企業発展を踏まえて採用、教育、評価を計画的に行い、人材を管理する役割があるため、経営戦略や目標の実現に直結した部門として企業には必須なのです。
人事の役割として主なものは、「採用」「配置・育成」「評価」「労務」「環境整備」の5つです。
多くの人事が深くかかわる業務は、人材の採用でしょう。その内容は、採用する人材の募集から選考、内定後のケアや入社の手続きなど長期かつ多岐にわたります。
また、自社に必要な人員計画を立案し、それに沿って企業説明会を実施するなど募集活動を行います。選考について人事はもちろん、各部署と協力して行う場合もあるため、社内でしっかりと連携が取れていなければなりません。
人材を採用した後の育成や配属先の決定も、人事の大切な役割です。OJT(On the Job Training)や、Off-JT(Off The Job Training)の計画に沿って人材配置を行い、育成をスタートします。内容は企業によって異なりますが、新人研修、OJT、ジョブローテーションと、必要に応じて定期的に研修を行っていくのが一般的です。長期的な教育計画を立てている企業も増えています。
従業員の評価制度を整えるのは、人事の大切な役割です。公平・公正に仕事を評価してくれる会社でなければ、従業員はモチベーションを保てません。。従業員のモチベーションを高めることは、会社全体の業績向上に大きく影響します。そのため、人事は、昇進や給与について公正で透明性のある評価制度に取り組むことが求められます。
人事は、従業員の労働に関係する事務処理も基本的に携わる場合が多いでしょう。主な業務は、勤怠データ、給与計算、各種保険や厚生年金の手続、健康診断、福利厚生の整備などです。
従業員が働きやすい環境を整備することも人事の重要な役割です。福利厚生の検討などに加え、社内コミュニケーションを活発にするためのイベントの企画、社内報や社内SNSの活用なども行います。
人事部が最も忙しいのは、3~4月の入社や転勤の時期と、半期を過ぎた10月といわれています。しかし、それ以外にも年間を通して労務関連などさまざまな業務があるため、おおまかな業務の内容とそれぞれの時期を把握しておくとよいでしょう。
1月~3月 | 給与支払報告書の提出 |
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4月~6月 | 定期昇給、健康介護雇用保険料率変更、住民税変更、労働保険料の申告書提出 |
7月~9月 | 算定基礎届、賞与計算、賞与支払届提出、被扶養者状況再確認リスト提出、高齢者・障害者雇用状況報告書提出 |
10月~12月 | 新標準報酬へ変更、厚生年金料率変更、最低賃金変更、年末調整・賞与計算および賞与支払届提出 |
人事部の年間スケジュールは、1年を通じて計画性が求められる業務と、毎月定期的に処理しなければならない業務が入り混じっているのが特徴です。1年のなかで、どの時期にどのような仕事が行われているのかを把握して、無理のないスケジュールを組んでおくことが、自社の人材活用や人材育成の推進につながるでしょう。
一般的に人事に向いているといわれるのは、このような人です。
人事は社内・社外の多くの人とつながる仕事です。そのため、積極的にコミュニケーションを取ろうという姿勢を持つ人のほうが向いている傾向があります。社外とのやり取りでは、会社の顔として相手によりよい印象を与える対応が求められ、社内に対しては従業員の相談やトラブル解決と幅広い対応が必要です。
そして、人事部の業務は社外秘の情報を取り扱うことが多いため、得た情報を外部に漏洩させない意識を持っていることが大前提です。従業員の悩みや相談内容について守秘義務を守るのはもちろん、自社の機密情報を外部に漏らすようなことがあれば大きなトラブルになることもあるため、最大限の注意が必要なのです。
加えて、多くの声を聞く立場だからこそ、それに対して冷静に対応でき、客観的で中立的な判断を下せる人が人事という仕事に適しています。公平なジャッジができない人事では、社内での信頼を失ってしまうでしょう。
ここまでご説明した3つの要素を兼ね備えた人材は、人事の仕事に向いているといえます。
人事の仕事は、社内外問わず多くの人とかかわるものです。業務を円滑に進めるためには、よりよい人間関係を円滑に築いていく必要があります。どういったスキルが人事に求められているのか、加えて、人事の業務を通して得られるスキルをまとめました。
上記のようなスキルのほか、業務に必要なパソコンのスキル、正確な作業やスピードも重要となります。さらに、怒りを管理するアンガーマネジメントも重要です。アンガーマネジメントとは、単純に怒らないことではなく、トラブルを防ぐために怒りをコントロールすることを言います。必要な場面で的確に怒り、不要な時には怒りを抑えられるスキルは、人事の仕事にも効果的です。また、人の感情についても把握・理解できるようになるでしょう。
このように、人事にはさまざまなスキルが求められ、業務を通じて得るものも多いのです。
今、人事に新たな変化が起きています。これまでよりも人事に強さが求められるようになり、新たなポストや言葉が注目されるようになっています。
近年、人事の業務で聞かれるようになったのは、CHRO(最高人事責任者)というポストや戦略人事という言葉です。これまでの人事は経営陣が立案した方針や戦略に沿って採用・育成・管理を行ってきたのに対して、CHROは人事面から戦略を考えて実行していきます。グローバル化が進むビジネスの世界で日本が競争力を高めるには、世界に通用するリーダーが必要。そうした人材を育成するために、企業を人事の面で牽引していくのがCHRO。実務的ではなく、経営的な責任を持つ役職です。
まだ今の日本ではCHROという役職を設定している企業は限られています。それにはいくつかの要因がありますが、CEO(最高経営責任者)が兼任している場合が多いことや、CHROとなるべき人材が不足していることなどが考えられるでしょう。CHROには非常に広い知識とスキルが求められるのです。
労働人口の減少や転職の増加などから、優秀な人材を確保することはこれからの企業の重要課題。人がもっとも大切な資源となっています。今までのように、人手が足りないから採用を行うというスタンスでは、いつまで経っても優秀な人材を育て、定着させることは難しいでしょう。これまで人事部が行っていた業務を超える役割や権限が必要になります。それをCHROが持ち、経営的な判断も含めて行うのが、人事戦略です。
人事の業務は、仕事の幅が広いのが特徴です。募集や採用、育成、そして退社に至るまで、さまざまな手続きに対応する必要があります。さらに勤務におけるトラブルや労働管理についても都度の対応や処理を行うことになります。
そして、労働については法律が制定されている部分も多いため、その知識も必要です。
ここでは人事として最低限知っておくべき労働に関する法令、「労働三法」と「労働三権」についてお伝えしていきます。
労働三法とは、労働者を守るための「労働基準法」「労働組合法」「労働関係調整法」という3つの法律の総称です。
1.労働基準法
労働条件に関する最低基準を定めたもので、労働時間や賃金の支払い、休日などの規定を言います。正社員だけでなくすべての労働者が対象です。
2.労働組合法
労働者の地位向上を目的に、会社(使用者)と対等に話し合いや交渉ができるように労働組合をつくることを保障した法律です。
3.労働関係調整法
労働組合法と関連しつつ、労働者と会社(使用者)間の争いごとを予防・解決することを目的とした法律です。
労働三権とは、憲法28条で保障された労働者の基本的権利で、地位を守るものです。以下の3つを指します。
1.団結権
労働者が勤務条件の維持や改善などのために労働組合を結成する権利です。
2.団体交渉権
労働者が結成した労働組合が、使用者(会社)と交渉する権利です。
3.団体行動権
労働組合が交渉以外にストライキや集会を行える権利です。
企業が成長するために一番重要なのは人と言われています。その人材を育成する立場にある人事業務は大変やりがいのあるものです。
また、多くの人とつながりを持てるのも魅力の一つ。業務のなかで会社の組織づくりに参加するなどの機会も多いため、会社を基盤から支える実感も得らます。さらに、自分の業務だけでなく、かかわった人の成功や成果で充実感や達成感を味わえるのも人事ならでは。こういった経験の積み重ねは、人事としての自信にもつながっていくはずです。
ここまでご紹介してきたように、人事とはさまざまな役割があり、求められるものも幅広い仕事です。また、表舞台に立つことは少ないかもしれません。しかし、採用や育成を通じて自社を支えることが、この仕事の大きな価値といえるでしょう。
少子高齢化による労働人口の減少は年々深刻化しています。加えて、キャリアアップ、スキル向上などを目的とした転職が一般化。働き方も多様化し、かつてのような終身雇用、年功序列という日本ならではの働き方が変わりつつあります。
実際に、大卒者の離職率は高まり、入社後3年以内に離職する早期離職は30%を超えています(厚生労働省:新規学卒就職者の離職状況)。入社して1年以内で辞める割合は11~12%ですが、この数字は実は1970年代からそれほど変化していません。しかし、人口が減っているのに数字が変わらないということが問題なのです。
2035年問題という言葉を聞いたことがある方もいるでしょう。2025年から団塊世代が後期高齢者(75歳以上)となり始め、2035年には団塊ジュニアが65歳以上になると人口全体の33.4%、3人に1人が高齢者となるといわれています。これにより、介護や医療、年金、経済への影響が懸念されているのです。介護が必要な人が増えても、それを担うための介護職員が足りず、医療についても同様に医者看護師、病院や病床も不足されると予想されています。年金制度のバランスが崩れ、労働者不足で経済にもダメージが大きいでしょう。今後はさらに人材の確保が難しくなっていくのです。
では、なぜ早期離職を選ぶ人が多いのでしょう。離職者はいくつかのタイプに分かれますが、大きく分けて4タイプです。
もちろん、やむを得ない理由もあります。しかし、スキルアップや人間関係など企業側で対処可能なものも多いのではないでしょうか。
人事の仕事は幅広く大変ですが、現場の協力も仰ぎ、会社全体で人を育てていくような仕組みづくりを目指すとよいでしょう。
働き方改革の推進、コロナ禍による変化、多様な働き方の増加などにより、人事の業務範囲が広がったことで、これまで以上に負担が増えています。労務管理なども重要ですが、これまでお伝えしてきたように、人事の仕事で最も重要なのは、人を採用し、育て、維持すること。
労務管理の負担が増えてしまうと、これらの業務に支障が出てしまうかもしれません。そこでおすすめしたいのが、専用システムの導入です。
システムには労務管理のためのものもありますが、ここでご紹介するのは人材管理のためのシステムです。
人材はさまざまな課題を抱えていますが、そのなかでも多いのが下記の3つです。
これらの課題を解決できるツールが搭載されたHRシステムが必要になります。採用した新卒社員が中途社員を即戦力化するオンボーディング、組織に対するエンゲージメントを測るサーベイ、コミュニケーションの活性化などです。さらに、1on1ミーティングやOKRなど、育成のための仕組みも備えているとよりよいでしょう。
おすすめシステムの一例
また、近年ではジョブディスクリプション(職務記述書)が注目されています。採用時から職務内容や条件を詳細に定めておくことで、ポストに見合う人材を採用し、入社後に齟齬が生じないようにするもの。欧米では一般的に使われてきたものですが、メンバーシップ型雇用が一般的だった日本ではほとんど使われていませんでした。
しかし、働き方の多様化が進む流れからジョブ型雇用へと移行する企業が増えたことで、改めて注目されています。
おすすめシステムの一例
自社に合ったシステムを選ぶことで、人事の負担は大きく軽減できます。人材の採用から育成、離職防止などに効果を発揮するHRシステムをぜひ活用してみましょう。
先述のCHROで、これからの時代は優秀な人材の確保と維持がさらに難しくなることをお伝えしました。人材を最大限に活かすことで経営戦略を実現するのが戦略人事(戦略的人的資源管理)。それが具体的にどのようなものか、これからの人事は知っておく必要があります。
戦略人事は企業が持つ資源「人・金・モノ」のうちの人に注目し、人的マネジメントによって企業の目的達成をサポートします。従来の人事と異なり、採用や育成、人材配置の際にも経営的な目線を持った業務進行をしなくてはなりません。管理を中心とした部門から、戦略的な業務を行う部門へと変わっていくことが求められているのです。
しかし、日本ではまだ戦略人事を取り入れている企業は多くありません。戦略人事の重要性について認識しつつも、導入や実施に至っていないのが現実です。その原因には、「人事部門は理解していても経営陣がまだ認識していない」「リソースや能力の不足」などの問題があるようです。
戦略人事を提唱したデイビッド・ウルリッチ氏によると、戦略人事を構成するのは4つの人事機能だといいます。
●HRBP(HRビジネスパートナー)
――事業戦略を理解しつつ、人事と組織の戦略を立案・実行できる経営者のパートナー
●CoE(センターオブエクセレンス)
――人事制度の設計や制度づくりを行い、HRBPを支える
●Ops(オペレーション部門)
――人事の実務を行う
●OD&TD(組織開発&タレント開発)
――組織を率いて企業の次世代のリーダーを育成していく
もちろん、こういった機能をすぐに社内に整えていくことは難しいかもしれませんが、CHROや戦略人事の役割などを意識していくことは、今後の自社の人事部門にとってとても重要なことになるはずです。
人事には、これまでのような管理の仕事に加え、新たな業務も増えています。時代の流れに合わせて働き方や採用方法などが変われば、人事の業務内容や役割も変化していきます。そして、今後はさらに人材の採用、教育、そして優秀な人材の定着が企業の課題となるでしょう。その時に労務管理に追われて人事が機能しないと、大切に育てた人を失うということにもなりかねません。
今回ご紹介した人事の基礎や役割、求められるスキルについて改めて確認することはもちろん、新たなポストCHRや戦略人事など、これからの企業に必要となることについても学んでおくことは人事としてとても重要。今後目指すべき道も見えてくるでしょう。
さらに、今後はHRシステムの活用が不可欠になると考えられます。人事業務の効率化のためにも、事前に検討やリサーチをしておくことをおすすめします。
この記事を書いた人